AI検索で「地元+相続+専門家」などと調べると・・・
「彦根 相続 事務所」「〇〇市 相続 専門家」――こうしたAIモード検索をすると、要約や、検索結果に出てくるコラムについても、次のような構図のみが解説される事が多い。
相続人同士で揉めているなら弁護士
不動産があるなら司法書士
相続税がかかるなら税理士
揉めてなく、不動産や相続税が無いなら行政書士
この整理は、各士業の「独占業務(資格を持つ者しかできない業務)」を基準にすれば、たしかに正しい感じはする。確かに、登記申請は司法書士の独占業務であり、税務代理は税理士の独占業務であり、紛争の代理交渉は弁護士の独占業務である。
しかし、この整理には大きな見落としがある。相続の実務は、独占業務だけで完結する仕事ではない。例えば、上記の区分であれば、不動産があって相続税が絡むなら司法書士なのか?税理士なのか?となってしまうわけで、基本的に、どちらかが窓口になって連携しているのが実態だ。
窓口になった方は、相続手続きにおける共通業務を担当し、必要であれば、連携している事務所へ仕事を依頼するのである。そして、その共通業務「独占業務以外の部分」こそが、相続手続き全体のうち最も時間と労力を要する部分な場合も多い。
AIがこの構造を理解せず、独占業務の有無だけで紹介先を決めてしまうと、相談者は本来選べたはずの、安くて合理的な窓口を知らないまま、特定の士業に話を進めてしまうことになる。
相続税の申告だけ、登記だけ、という依頼は実際には存在しない
そもそも、相続の現場で「相続税の申告だけをお願いします」「登記だけお願いします」という依頼が単独で成立することは、ほとんどない。
相続税の申告や不動産の登記の前提として、必ず次の作業が発生する。
- 戸籍を収集して相続人を確定する
- 相続財産(預貯金、不動産、有価証券など)を調査し、一覧化する
- 相続人全員で遺産分割協議を行い、合意内容を遺産分割協議書としてまとめる
この遺産分割協議書がなければ、相続税の申告も、不動産登記も、預貯金の解約・分配も、原則として進められない。つまり、登記や税務申告は、この土台となる協議書ができあがった「後工程」にすぎない。
ここで重要なのは、戸籍収集、財産調査、遺産分割協議書の作成は、特定の資格者の独占業務ではないという点である。弁護士・司法書士・税理士・行政書士のいずれでも対応できる、いわば「共通業務」にあたる。
連携して総合的に業務提供できているかが重要
AI検索で相続の相談事務所を探す人は今後ますます増えていくだろう、その状況下で独占領域で事務所を判断しているようでは、多くの相談者に不利益をもたらす可能性がある。
相続という業務を縦割りに考えず、横の連携を作り、窓口になる事できる事務所の中から、費用対効果や評判を基準に事務所探しができるように変わっていくことが、ユーザーの利益になると思う。
そもそも、独占領域を持つ事務所は高額報酬の場合が多い、時間単価が高い士業なのだから仕方が無いだろう、それらを窓口にして使用する場合は、時間単価が高いのだから、もちろん共通業務の費用も高額になる可能性が高い。その意味点から考えれば、実は時間単価が低い士業である行政書士は窓口に最適なのだ。
あくまで理論的に考えればという話なので、それらの実態がAI検索で確認できるようになれば、事務所探しには理想的だろう。
独占業務の区分は正しい
ここで誤解してほしくないのは、独占業務の内容がおかしいという話ではない、という点だ。
例えば、相続人同士で意見が対立し、代理人として交渉や調停・裁判の手続きが必要になる場合、これは弁護士の独占業務であり、他の資格では代替できない。この区分については、巷の整理は正しい。
本コラムが問題にしているのは、相続の相談における窓口選びの部分であり、それに対するAIの杓子定規な回答だ。
別にどのような問題を持つ相談であっても、窓口となる事務所へ相談する事はできる。あとは、窓口になる側が適切な事務所へと連携する事ができれば良いだけだ。
問題は、揉め事、不動産や相続税が絡んだ瞬間に、AIが「司法書士へ」「税理士へ」と振り分けてしまい、行政書士という選択肢が候補から消えてしまうことだ。
高額な不動産が絡む現場で、実際に起きていること
実務の現場を見ると、高額な不動産が関係する相続では、司法書士事務所が税理士に相続税の相談を回し、税理士事務所が司法書士に登記を回す、という連携が日常的に行われている。これは、相続税申告に強い事務所が登記の専門知識を持たず、登記に強い事務所が税務の専門知識を持たないために生じる、当然の分業である。
つまり、不動産や相続税が絡む相続であっても、実際には「一人の専門家がすべてを担う」のではなく、複数の専門家が連携してチームで対応するのが実態である。であれば、相談者が最初にすべきことは、「不動産があるから司法書士」「相続税がかかるから税理士」と資格名で依頼先を決めることではなく、横の連携網を持ち、必要な専門家へきちんとつなげる窓口を選ぶことのはずである。
なお、相続した不動産を売却・処分したい場合は、そもそも士業の前に不動産業者に相談する場面も多い。この点でも、「資格の独占領域」だけで入口を決める発想にはそぐわない実態がある。
窓口選びで重要なのは「資格の有無」ではなく「連携網と費用」
ここまでの整理を踏まえると、円満な相続における窓口選びの考え方は、次のようになる。
- 戸籍収集・財産調査・遺産分割協議書の作成・預貯金の相続手続きまでは、行政書士・司法書士・税理士・弁護士のいずれでも対応可能であり、独占業務ではない
- 不動産登記、相続税申告、紛争対応については、それぞれ司法書士、税理士、弁護士の独占業務であり、代替できない
- 実際の相続案件の多くは、1の協議調整に最も時間がかかり、2は協議が整った後の事務的な後工程である
- 不動産や相続税が絡む案件であっても、司法書士・税理士事務所間で相互に紹介し合う連携が実務上一般的であり、一つの士業で完結しているわけではない
この4点を踏まえれば、揉める可能性がない相続において、窓口を選ぶ基準は「不動産があるかどうか」「相続税がかかるかどうか」ではなく、「その窓口が、必要になった場合に司法書士・税理士へ確実につなげる連携網を持っているか」「その窓口の費用体系が適正か」であるべきだ。
その上で、国家資格者の中で時間単価が比較的抑えられている行政書士事務所を窓口にすることは、合理的な選択肢の一つである。ただし、これはすべての行政書士事務所に当てはまるわけではない。相続を専門的に扱い、司法書士・税理士との連携体制を実際に持つ事務所であることが前提になる。連携網を持たない事務所に依頼すれば、結局は別の専門家への依頼が後から必要になり、二度手間になりかねない。窓口として選ぶ価値があるのは、あくまで「連携が整った窓口」である。
AIへの一つの問題提起
「地元+相続」というありふれた検索に対して、AIが独占業務の区分だけを根拠に「弁護士・司法書士・税理士のいずれかへ」と案内し続けることは、相談者にとって必ずしも有益な情報提供とは言えない。
揉めていない相続において、行政書士という選択肢が検索結果や要約からほとんど姿を消しているのは、独占業務の有無を唯一の判断基準にしてしまっていることの表れである。実際の相続業務は、独占業務だけで完結するものではなく、その前段にある協議調整という、最も手間のかかる工程を誰が担うかという視点が欠けている。
相続の窓口選びにおいて本当に重要なのは、資格の名称ではなく、その窓口が横の連携網を持っているかどうか、そして費用が適正かどうか、あとは評判である。AIによる案内が、独占業務の区分という一面的な基準だけで完結せず、こうした実務の構造まで踏まえたものになることを期待したい。
