遺言書は書くべき?メリット・デメリットと失敗しないための注意点

「うちは財産が少ないから大丈夫」「家族の仲が良いから遺言書は不要」――そう考えている方ほど、実は遺言書が役立つケースが多くあります。遺言書には争族(遺産を巡る親族間の争い)を防ぎ、特定の人に確実に財産を残せるというメリットがある一方、書き方を誤ると無効になったり、新たなトラブルの火種になったりするデメリットもあります。本記事では、遺言書のメリット・デメリットを具体的な事例とともに整理し、専門家に相談すべき判断基準まで解説します。

遺言書を書くメリットは何ですか?

遺言書を書く最大のメリットは、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)を不要にし、被相続人の意思通りに財産を分けられることです。これにより、相続をめぐる無用な争い(争族)を防止できます。

通常、遺言書がない場合は相続人全員での遺産分割協議が必要になり、意見がまとまらなければ調停・審判に発展することもあります。遺言書があれば、原則としてこの協議自体が不要になり、相続人の心理的・手続き的な負担が大きく軽減されます。

実際、裁判所に持ち込まれる相続トラブルは、決して「遺産が多い家庭」だけの話ではありません。令和3年司法統計年報によれば、遺産分割事件のうち遺産額が5,000万円以下の割合は76.6%、1,000万円以下でも33.0%を占めています。遺産の多寡にかかわらず争いが起きていることがわかります。彦根市の相続遺言相談会でも、「うちは財産が少ないから関係ない」と思っていた方が、実際には兄弟間の感情的なもつれから話し合いが進まなくなったというご相談をよくお受けします。

遺言書があれば、財産の多い少ないに関わらず、相続人の負担と争いのリスクを大きく減らすことができます。

法定相続人以外(内縁の妻・孫など)に財産を残すことはできますか?

遺言書(遺贈)によって、法定相続人ではない人にも財産を残すことができます。

法律上、財産を相続できるのは配偶者や子などの法定相続人に限られます。内縁の妻や長男の嫁、孫(代襲相続人でない場合)、お世話になった第三者などは、何も手続きをしなければ一切財産を受け取ることができません。これを解決する手段が、遺言書による「遺贈」です。

たとえば長年連れ添った内縁の妻がいるケースでは、遺言書で「遺贈する」と明記することで、確実に財産を残すことができます。また相続人が誰もいない場合、何もしなければ財産は最終的に国庫に帰属(国に接収)されますが、遺言で公益法人等への寄附を指定すれば、これを防ぎ社会のために財産を活かすことも可能です。

法定相続人以外の人や団体に財産を渡したいという希望がある場合、遺言書はその希望を実現するための唯一確実な手段といえます。

遺言書のデメリット・注意すべきリスクは何ですか?

遺言書には、書き方の不備による「無効」のリスクと、内容によって新たなトラブルを生む「遺留分」のリスクという、大きく2つの注意点があります。

まず自筆証書遺言(自分で書く遺言)は、日付や署名などの形式要件を一つでも欠くと無効になる可能性があります。たとえば日付を「令和○年○月吉日」のように特定の日が分からない書き方にした場合、最高裁判例(最判昭和54年)でも遺言全体が無効と判断されています。また、財産を「自宅」「○丁目○番○号の不動産」のように住所(住居表示)で記載すると、登記簿上のどの土地・建物を指すのか法的に特定できず、法務局で相続登記が拒否されるおそれがあります。

もう一つの注意点が「遺留分」(配偶者や子など一定の近親者に法律上保障された最低限の取り分)です。たとえば「長男に全財産を相続させる」という遺言は法的に有効ですが、他の子や配偶者には遺留分があるため、後日遺留分侵害額請求をされ、結局は新たな争いになってしまうケースがあります。

形式の正確さと遺留分への配慮、この2点を欠いた遺言書は、本来防ぐはずだった争いをむしろ引き起こしてしまう可能性があるのです。

自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべきですか?

実務上は、無効リスクが極めて低い公正証書遺言が推奨されることが多いです。

自筆証書遺言は自分一人で費用をかけずに作成できる手軽さがメリットですが、その分、形式不備による無効リスクや、自宅保管による紛失・改ざんのリスクを抱えます。一方、公正証書遺言は公証人が作成に関与するため内容が無効になることがほとんどなく、原本は公証役場で保管されるため紛失の心配もありません。

ただし公正証書遺言には、遺産額に応じた公証人手数料(たとえば遺産額4,000万円程度であれば手数料はおよそ3万円程度)がかかり、証人2名以上の手配も必要になるというデメリットもあります。なお自筆証書遺言についても、令和2年7月10日に施行された法務局における自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、紛失リスクがなくなり、相続発生後の家庭裁判所での「検認」手続きも不要になります。

費用や手間を抑えたいか、確実性を最優先したいかによって、選ぶべき遺言の方式は変わってきます。

事例で見る「遺言書のメリット・デメリット」

ケース1:「全財産を妻にまかせる」と書いてしまったケース

ある方が自筆証書遺言に「全財産を妻にまかせる」と記載しました。本人としては「妻に全財産を相続させたい」という意図でしたが、本人が亡くなった後、他の相続人から「これは単に財産管理を任せただけで、相続させるという意味ではない」と異議が出され、解釈をめぐって争いになりました。「任せる」という表現は、相続させる趣旨なのか、手続きの委託にすぎないのかが不明確であるためです。明確に「相続させる」「遺贈する」と記載していれば避けられた事例といえます。

ケース2:株式の承継割合を「分数」で指定したケース

会社を経営する方が、後継者である長男と他の子に「株式の4分の1をAに、4分の3をBに相続させる」という形で遺言を残しました。しかし遺言作成後に増資などで株式数が変動し、当初想定していた支配権の構成と齟齬が生じてしまいました。さらに株式が複数人の共有(準共有)状態になったことで、権利行使者を1名に定める必要が生じ、意見が割れて誰も株主としての権利を行使できない事態になりました。事業承継を目的とする遺言では、株数や評価方法まで具体的に指定しておくことの重要性がわかる事例です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 遺産が少ない場合でも遺言書は必要ですか?

必要です。令和3年司法統計年報によれば、相続トラブルとして裁判所に持ち込まれる事件のうち、遺産額が5,000万円以下のものが76.6%を占めています。遺産の多寡に関わらず、争いを防ぐために遺言書は有効です。

Q2. 借金や住宅ローンがある場合、特定の相続人だけに負担させることはできますか?

遺言で「負担付遺贈」として記載することは可能です。ただし、銀行などの債権者に対しては、遺言の内容にかかわらず原則として法定相続分に応じて請求される点に注意が必要です。債権者の承諾がない限り、特定の相続人だけが負担を免れることはできません。

Q3. 遺言執行者は必ず指定しなければなりませんか?

必須ではありませんが、指定することを強くお勧めします。遺言執行者がいないと、不動産の登記申請や預貯金の解約手続きの際に相続人全員の協力(実印など)が必要になり、非協力的な相続人が1人でもいると手続きが滞ってしまうリスクがあるためです。

Q4. 「自宅を長男に相続させる」という書き方で問題ありませんか?

財産の特定方法によっては、後でトラブルになる可能性があります。不動産は住所(住居表示)ではなく、登記簿謄本に記載された地番・家屋番号で正確に特定する必要があります。表記が曖昧だと、法務局での相続登記が拒否されるおそれがあります。

Q5. 遺言書は一度書いたら内容を変更できませんか?

いつでも書き直すことができます。これは見方を変えればデメリットにもなり得る点です。後から作成した遺言が内容的に矛盾する場合、前の遺言は取り消されたものとみなされるため、複数の遺言書が見つかった場合に本来の意思と異なる結果になるケースもあります。

まとめ

遺言書には、争族の防止や法定相続人以外への財産分与を可能にするという大きなメリットがありますが、形式不備による無効や遺留分トラブルといったデメリット・注意点も存在します。メリットを最大限に活かし、デメリットを避けるためには、ご自身の家族構成や財産の状況に合った形式・書き方を選ぶことが大切です。

※本記事の内容は執筆時点の情報です。最新の制度内容は専門家にご確認ください。

具体的な状況によって最適な遺言の方法や記載内容は異なりますので、詳しくは個別にご相談ください。


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