遺言書の書き換え・撤回は可能?前の遺言と後の遺言、どちらが有効になるか

遺言書の書き換え・撤回手順 前の遺言は有効なのか?
遺言書の書き換え・撤回手順 前の遺言は有効なのか?

遺言書は何度でも書き換えることができ、内容が矛盾する場合は日付が新しい遺言が優先されます(民法1023条)。ただし「撤回した」と思い込んでいても法的には撤回が成立していないケースが多く、特に公正証書遺言を作成している方は注意が必要です。本記事では、遺言書の正しい撤回方法と、実際に起こりやすいトラブルについて解説します。

前の遺言と後の遺言、どちらが有効になる?

結論として、内容が矛盾する部分については、日付が新しい後の遺言が優先されます。

これは民法1023条に明確に規定されているためです。前の遺言と後の遺言の内容が抵触(矛盾)する場合、その抵触する部分に限り、後の遺言によって前の遺言が撤回されたものとみなされます。

例えば、「甲建物を長男に相続させる」と書いた遺言の後に、「甲建物を長女に相続させる」という遺言を新たに作成した場合、甲建物については後の遺言が有効になります。

一方、前の遺言に書かれていた他の財産(後の遺言で触れていない部分)については、抵触していないため有効なまま残ります。これが、後述する「どこまでが撤回されたか」というトラブルの原因にもなります。

複数の遺言が併存する場合は「全部が無効になるわけではなく、矛盾する部分だけが入れ替わる」という点を押さえておくことが重要です。

遺言書を確実に撤回する3つの方法

結論として、遺言の撤回には主に3つの方法があり、最も確実なのは新しい遺言書で明確に撤回する方法です。

民法1022条は「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」と定めており、撤回の手段として以下のパターンが認められています。

パターンA:新たな遺言書で明確に撤回する(推奨)

新しい遺言書の中に「本日以前における遺言者の遺言(公正証書遺言を含む)の全てを撤回し、改めて以下のとおり遺言する」と明記する方法です。最も解釈の余地が少なく、確実性が高い方法といえます。

パターンB:遺言書そのものを破棄する

自宅保管の自筆証書遺言であれば、本人が故意に破棄(破り捨てる等)することで、その部分の撤回が成立します(民法1024条)。ちょっと乱暴ですね。ただし、法務局保管制度を利用している場合は、保管の撤回申請をして返還を受けたうえで廃棄する必要があります。

パターンC:遺言の内容と矛盾する生前処分を行う

遺言で「長男に相続させる」とした財産を、生前に別の人へ売却・贈与した場合、その行為自体が遺言の内容と矛盾するため、当該部分は撤回されたものとみなされます。

このように、撤回の方法は遺言の種類(自筆証書か公正証書か)によって取れる手段が異なるため、自分がどのパターンに当てはまるかを確認することが、確実な撤回の第一歩になります。

公正証書遺言は「手元の控えを破棄」しても撤回できない

公正証書遺言は手元にある正本や謄本を破棄しても、法的な撤回にはなりません

公正証書遺言の原本は公証役場に保管される仕組みになっており、本人が破棄できるのは手元の控え(正本・謄本)のみです。原本そのものを破棄する手続きは存在しません。

実際に「公正証書遺言の正本を破り捨てて、これで前の遺言は無効になったと思い込んでいた」というケースは存在するようです。ただ、公証役場に原本が残っているため、本人が「撤回した」と認識していても、法的には前の遺言がそのまま有効に残ってしまいます。死後にこの遺言が見つかり、本人の意思と異なる内容で相続が進んでしまうという事態にもつながりかねません。

したがって、公正証書遺言を撤回・変更したい場合は、控えを破棄するのではなく、必ず新たな遺言書を作成する手続き(パターンA)を取る必要があります。

公正証書遺言を自筆証書遺言で書き換えるリスク

結論として、公正証書遺言を後から自筆証書遺言で書き換えることは法的に可能ですが、実務上はトラブルに発展しやすいため注意が必要です。

民法上、遺言の方式に上下関係はなく、後の自筆証書遺言が前の公正証書遺言を撤回することは認められています。しかし、公正証書遺言は公証人が本人の意思確認をした上で作成されるのに対し、自筆証書遺言は本人が単独で作成するため、死後に内容を争われやすいという実務上の傾向があります。

実際に、きちんとした公正証書遺言があったにもかかわらず、後から自筆証書遺言で内容を書き換えた結果、内容に不満を持つ相続人から「筆跡が違う(偽造ではないか)」「認知症の状態で書かされたのではないか」といった主張がなされ可能性があります。

このため、公正証書遺言を変更・撤回する場合は、同じ自筆証書遺言で書き換えるのではなく、再度公正証書遺言の形式で作成し直すことが、トラブル防止の観点から勧められます。

自筆証書遺言の場合、隠されたり、破棄されるような可能性も生じます。自筆証書遺言を使うのであれば、遺言書の保管制度を必ず利用しましょう。

事例で見る「遺言書の書き換え・撤回」

ある相談者(70代女性)は、数年前に公正証書遺言を作成していましたが、その後家族関係の変化があり、内容を一部見直したいと考えていました。最初にご本人がとった行動は、手元にある公正証書遺言の正本を処分し、新しい内容をメモ書きのような形で残しておくというものでした。

まず、公正証書遺言の原本は公証役場に保管されており、正本を処分しただけでは前の遺言は撤回されていない状態となります。さらに、メモ書きのような形式では、自筆証書遺言として有効になるための要件(全文・日付・氏名の自書、押印など)を満たしていない可能性が高く、そのままでは「前の公正証書遺言が単独で有効な状態」になってしまいます。

この場合、ご本人の意向を整理した上で、公証役場で新たな公正証書遺言を作成し直す形が理想的でしょう。

「撤回したつもり」と「法的に撤回が成立している状態」には差があるため、すでに作成した遺言書が存在する場合は、書き換えの前に専門家に確認することをお勧めしています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 遺言書は何回でも書き換えられますか?

はい、何回でも書き換え可能です。民法1022条により、遺言者は生前いつでも遺言の全部または一部を撤回・変更できます。

Q2. 前の遺言と後の遺言、内容が違う部分はどちらが有効ですか?

矛盾(抵触)する部分については、日付が新しい後の遺言が有効になります(民法1023条)。矛盾していない部分はそれぞれ有効なまま残ります。

Q3. 自筆証書遺言を法務局に預けている場合、撤回するにはどうすればいいですか?

法務局に保管の撤回申請を行い、遺言書の返還を受けたうえで破棄するか、あるいは新たな遺言書を作成する方法があります。手元保管の遺言と異なり、自分で破り捨てるだけでは撤回できません。

Q4. 遺言書に書いた不動産を生前に売ってしまった場合、その部分の遺言はどうなりますか?

遺言の内容と矛盾する生前処分(売却・贈与など)を行った場合、その部分については遺言が撤回されたものとみなされます(法定撤回)。

Q5. 公正証書遺言の内容を一部だけ変更したい場合、自分で訂正してもいいですか?

お勧めできません。一部変更の場合、どこまでが撤回・変更されたのかの解釈が将来争いの原因になりやすいため、専門家に相談しながら全体を作成し直す方法が安全です。

まとめ

遺言書は何度でも書き換えが可能で、矛盾する部分については後の遺言が優先されます。ただし、公正証書遺言は手元の控えを破棄しても撤回にはならず、自筆証書遺言での書き換えも後日のトラブルにつながりやすいという特徴があります。確実に撤回・変更したい場合は、新たな遺言書(できれば公正証書遺言)を作成する方法を選ぶことをお勧めします。具体的な状況によって適切な対応は異なりますので、詳しくはご相談ください。

※本記事の内容は執筆時点の情報です。最新の制度内容は専門家にご確認ください。

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