前妻との子がいます。今の妻と子に、相続の手続きで負担をかけたくない

前妻の子がいる場合の相続。前妻の子も相続人、遺言でも遺留分は残る、支払う現金を用意する、事前放棄は遺言とセット、の4点を示した図

再婚されていて、前の配偶者との間にお子さんがいる。この状況でよくお聞きするのが、「自分が亡くなったあと、今の家族が前妻の子と連絡を取り合うことになるのではないか」というご不安です。この不安は、感情の問題ではありません。「手続きが止まる」という、制度上の問題です。遺言書を残すことで多くは避けられますが、遺言だけでは残る部分もあります。順番に整理します。

目次

なぜ、今のご家族が前妻のお子さんと関わることになるのか

離婚をしても、親子関係は続くからです。

被相続人の子は相続人となる、と民法887条1項が定めています。ここでいう「子」に、前の配偶者との間のお子さんも含まれます。親権がどちらにあったか、その後どれだけ会っていないか、養育費の支払いがあったかどうかは、相続人であるかどうかに影響しません。

一方、離婚した元配偶者は相続人になりません。相続人となる配偶者は、相続開始の時点で婚姻関係にある方だからです(民法890条)。「元妻が相続人になるのでは」と心配される方がいらっしゃいますが、そこは問題になりません。相続人になるのは、元配偶者ではなく、そのお子さんです。

また、再婚相手のお子さん(いわゆる連れ子)は、養子縁組をしていなければ相続人になりません。ここは「一緒に暮らしてきた年数」ではなく、戸籍上の関係で決まります。長く実の子と同じように育ててこられた場合ほど、この点を見落としやすいところです。

つまり、多くの再婚家庭では、今の配偶者と、前の配偶者との間のお子さんが、同時に相続人になります。

本当の問題は、気持ちではなく「手続きが止まる」ことです

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。

遺産を分けるには、相続人全員の協議が必要です。民法907条1項は、共同相続人は「その協議で」遺産の分割をすることができると定めています。裏を返せば、相続人が一人でも欠けたまま進めた協議は、効力を持たないとされています。預貯金の解約も、不動産の名義変更も、原則としてここで止まります。

すると、何が起きるか。

今の配偶者が、前妻のお子さんを探し、亡くなったことを伝え、遺産分割の話し合いを申し入れる——という役回りになりかねません。面識がない相手であればなおさら、精神的な負担は小さくありません。実務書にも、連絡先が分からない場合には戸籍の附票をたどる方法があるものの、公的な情報だけでは連絡が取れるとは限らず、前の配偶者やそのご親族に連絡を取るほうが早い場合がある、という指摘があります。

そしてもう一つ、見落とされやすい制度上の壁があります。

戸籍の広域交付では、今の配偶者は前妻のお子さんの戸籍を取れません。2024年3月1日に施行された戸籍法の改正(令和元年法律第17号)により、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍証明書・除籍証明書を請求できるようになりました。ただし請求できるのは、本人・配偶者・直系尊属・直系卑属に限られます。今の配偶者から見て「配偶者の前婚の子」は直系ではないため、この制度の対象外です。さらに、郵送や代理人による請求もできず、窓口に本人が行き、顔写真付きの身分証明書を示す必要があります。

「便利になったから大丈夫」とは言い切れないのが実際のところです。残されたご家族が、慣れない戸籍の請求から始めることになる——ここが、この問題の中身です。

打てる手は、順番に7つあります

以下は、一般に用いられている方法を、効果の大きい順に並べたものです。

1 遺言書を残して、話し合いそのものを不要にする

いちばん効くのはここです。民法908条1項により、遺言で遺産の分割の方法を定めることができます。特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言は、特定財産承継遺言と呼ばれます(民法1014条2項)。誰が何を受け取るかが遺言で決まっていれば、その範囲について遺産分割協議は要らないと考えられています。今のご家族が前妻のお子さんと交渉する場面を、そもそも作らずに済みます。

方式には自筆証書遺言と公正証書遺言があります。あとから争いになる可能性がある場合には、方式の不備で無効になる心配が少なく、原本が公証役場に保管される公正証書遺言が検討されることが多いようです。方式の違いや費用は、公正証書遺言の作成サポートで整理しています。

2 遺言執行者を指定しておく

遺言書があっても、その内容を実現する人を決めていないと、金融機関や法務局で相続人全員の署名や印鑑証明書を求められることがあります。そこで、遺言執行者の指定が効いてきます。

  • 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)
  • 遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができます(同条2項)
  • 相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができず、違反した行為は無効となります(民法1013条1項・2項。ただし善意の第三者には対抗できません)

未成年者と破産者は遺言執行者になれません(民法1009条)が、それ以外に資格の制限はありません。詳しくは遺言執行者のご相談をご覧ください。

ただし万能ではありません。相続人の債権者や相続債権者が相続財産について権利を行使することは、妨げられません(民法1013条3項)。

3 遺言書の「知らせ方」まで設計しておく

法務局の自筆証書遺言書保管制度を使う場合、保管された遺言書は家庭裁判所の検認が不要になります。ただし、通知の仕組みには理解しておきたい点があります。

  • 関係遺言書保管通知は、相続人等の誰かが閲覧や証明書の交付を受けたときに、その他のすべての相続人等へ届きます
  • 死亡時通知は、あらかじめ希望した場合に、指定した1名へ届きます

放っておいて自動的に全員へ届く制度ではありません。誰に、どの順序で伝わるようにしておくか。ここは設計の対象です。

4 生命保険の受取人を指定しておく

死亡保険金は、受取人が指定されている場合、その受取人が自分の権利として受け取るものと扱われ、一般には遺産分割の対象にならないとされています。今のご家族に残したい資金がある場合の選択肢になります。

税務上は、受取人が相続人である場合、500万円 × 法定相続人の数が非課税限度額とされています(国税庁「相続税の課税対象になる死亡保険金」)。相続を放棄した方は非課税の適用を受けられませんが、法定相続人の数を数えるときには算入されます。

なお、受け取る保険金額が相続財産に比べて著しく大きいときなど、事情によっては特別受益に準じて扱われることがあるとされています。個別の事情によりますので、金額の組み立ては慎重に検討してください。

5 遺留分を「払える形」にしておく

ここが軸のもう一つです。

遺言を書いても、遺留分は残ります。遺留分を侵害する遺言も無効にはなりませんが、遺留分権利者から遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求されることがあります(民法1046条1項)。2019年7月1日に施行された改正により、この請求は金銭の支払いを求めるものとされました。

つまり、今のご家族に現金が必要になる場面が生じ得ます。財産が自宅などの不動産に偏っていると、相続した不動産を売って支払いに充てる、という事態も想定されます。

備え方は2つあります。

  • 支払える現金を用意しておく(前記4の保険金の活用など)
  • 裁判所に支払期限の許与を求める——受遺者等が金銭を直ちに準備できない場合、裁判所は請求により、支払について相当の期限を許与することができます(民法1047条5項)

なお、遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年行使しないと時効で消滅し、相続開始の時から10年を経過したときも消滅します(民法1048条)。

遺留分の割合や計算の考え方は遺留分とは?で扱っています。

6 遺留分の事前放棄——ただし「遺言とセット」でなければ効きません

相続開始前に遺留分を放棄することは可能です。ただし、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を生じます(民法1049条1項)。申立ては遺留分を持つご本人が行い、申立先は被相続人の住所地の家庭裁判所、費用は収入印紙800円と連絡用の郵便切手です。共同相続人の一人が放棄をしても、他の相続人の遺留分には影響しません(同条2項)。

ここに、実務書が繰り返し指摘する落とし穴があります。

遺留分の放棄は、相続の放棄ではありません。放棄をしても相続人であることは変わらないため、遺言書がなければ、放棄をした方も含めた遺産分割協議が必要になります。

つまり、遺留分を放棄してもらっただけでは、この記事の軸1(手続きが止まる問題)は解決しません。遺言書とセットで初めて意味を持ちます。逆に、遺言書だけでは軸2(遺留分)が残ります。両方そろって、はじめて今のご家族の負担が下がる——ここが要点です。

7 付言事項で、理由を残しておく

遺言書には、財産の分け方のほかに、その理由や気持ちを書き添えることができます。付言事項と呼ばれるものです。法律で定められた遺言事項ではないため、法的な効力は生じないとされています。「遺留分を請求しないでほしい」と書いても、請求権を失わせる効力はありません。

それでも、なぜこの分け方にしたのか、という気持ちが残っていることで、受け取る側の受け止め方が変わることもあるという点は、よく指摘があります。効果を保証できるものではありませんが、費用をかけずにできる備えです。

誰が、どこまで担うのか

この問題は、複数の分野にまたがります。役割を整理しておきます。

場面担う人
遺言書の原案づくり、遺産分割協議書の作成行政書士(行政書士法1条の3第1項の「権利義務又は事実証明に関する書類」の作成)
公正証書遺言の作成公証人(公証役場)
不動産の名義変更(相続登記)司法書士
相続税の試算・申告税理士
相手方との交渉・代理、争いのある事件弁護士

最後の行は、条文そのものに書かれています。行政書士法1条の4第1項1号は、行政書士が代理できる手続から「弁護士法72条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するもの」を除いています。つまり、遺留分をめぐって前妻のお子さんと交渉する場面は、弁護士の領域です。

当事務所では、登記は提携司法書士、税務は提携税理士と連携して進めています。

なお、遺言書がある場合の手続きの入口は遺言執行者のご相談、遺言書全体の考え方は遺言書の作成にまとめています。

期限のあるものを、先に押さえておく

備えを考えるときは、残される側にかかる期限も知っておくと判断しやすくなります。

手続き期限
相続の放棄・限定承認自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月(家庭裁判所へ)。相続人全員の請求により、家庭裁判所が期間を伸長できる場合があります(民法915条1項ただし書)
相続税の申告・納税被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月(被相続人の住所地を所轄する税務署へ)
相続登記の申請不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内(不動産登記法76条の2第1項。2024年4月1日施行。施行日前の相続は2027年3月31日まで。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料)
遺留分侵害額の請求知った時から1年/相続開始から10年(民法1048条)

相続登記については、「遺言の有効性や遺産の範囲について相続人間で争われている」ことが、期限を守れない「正当な理由」の例として挙げられています。争いが起きると手続きが止まるということを、国の資料も前提にしています。

よくあるご相談例(想定ケース)

以下は、実際にお受けすることの多いご相談を一般化した想定ケースです。特定の方の事案ではありません。

ご相談者:60代男性・彦根市在住

  • 20年前に離婚。前の配偶者との間に、成人したお子さんが1人。10年以上連絡を取っていない
  • 現在の配偶者と、高校生のお子さんが1人
  • 主な財産は自宅(土地・建物)と預貯金。預貯金の額は自宅の評価に比べて多くない

ご本人のお気持ち:「前の子に何も渡したくない、ということではありません。ただ、自分が死んだあと、妻が知らない人に連絡を取って、家のことを話し合わなければならないのが申し訳ない」

このまま何もしないと:相続人は、現在の配偶者・高校生のお子さん・前の配偶者との間のお子さんの3名になります。遺産分割協議には3名全員の合意が必要で、現在の配偶者が連絡役を担うことになりかねません。

打てる手の組み立て方:まず遺言書で分け方を決め、遺言執行者を指定して、今のご家族が動かなくても手続きが進む形にする。そのうえで、前妻のお子さんの遺留分に相当する金銭をどう用意するかを、保険や預貯金の配分で検討する。財産が自宅に偏っているため、ここを詰めておかないと自宅を売る話になりかねません。

条件が変わると:前妻のお子さんとの関係が良好で、話し合いができる場合には、遺留分の事前放棄(家庭裁判所の許可)を組み合わせる余地もあります。ただし、その場合も遺言書は必要です。

どこから手をつければよいか分からない段階でも構いません。遺言書作成のご相談からお気軽にどうぞ。

よくある質問

Q1. 遺言書があっても、前妻の子に連絡しなければならないのですか?

遺言書で分け方が決まっていれば、その範囲について遺産分割協議は不要です。遺言執行者を指定しておけば、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができます(民法1012条2項)。ただし、遺留分侵害額の請求を受ける可能性は残るため、「一切関わらずに済む」とまでは言えません。

Q2. 前妻の子の住所が分からない場合、誰が調べるのですか?

戸籍をたどって調べることになりますが、2024年3月1日に始まった戸籍の広域交付では、配偶者から見た「配偶者の前婚の子」は請求できる範囲に入りません(請求できるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属)。郵送や代理人による請求もできません。ご生前に、どこまで情報を整えておくかを決めておくと、残されたご家族の負担が下がります。

Q3. 自宅を今の妻に残す遺言にした場合、遺留分の支払いはどうなりますか?

遺留分侵害額の請求は金銭の支払いを求めるものです(民法1046条1項)。財産が自宅に偏っていると、現金を用意できず、相続した不動産を売って支払う事態も想定されます。金銭を直ちに準備できない場合、裁判所に対して支払について相当の期限の許与を求めることができます(民法1047条5項)。

Q4. 遺留分を前もって放棄してもらえば、遺言書は要りませんか?

遺言書は必要です。遺留分の放棄は相続の放棄ではないため、放棄をした方も相続人であることに変わりはなく、遺言書がなければその方を含めた遺産分割協議が必要になります。遺留分の事前放棄と遺言書は、セットで考えてください。

Q5. 夫本人がまだ話す気にならないのですが、妻だけで相談できますか?

ご家族からのご相談もお受けしています。最終的に遺言書を作るのはご本人ですが、どのような選択肢があるのか、何を準備しておく必要があるのかを先に整理しておくことはできます。

まとめ

再婚されていて前の配偶者との間にお子さんがいる場合、今のご家族とそのお子さんが同時に相続人になり、遺産分割には全員の協議が必要になります。遺言書と遺言執行者の指定で協議そのものを避けられますが、遺留分は遺言では消せません。遺言書と、遺留分に充てる資金の準備。この2つをそろえておくことが、今のご家族の負担を減らす備えになります。

他の疑問や事例は老後・相続のよくある疑問と事例からお探しいただけます。費用の目安は業務内容と報酬規程をご覧ください。

※本記事の内容は執筆時点の情報です。最新の制度内容は個別にご確認ください。

ご相談について

「うちの場合はどうなるのか」を確かめたい方へ

ご家族の構成や財産の内容によって、組み立て方は変わります。「まだ誰にも話していない」「何から聞けばよいか分からない」という段階でも構いません。秘密は厳守いたします。初回のご相談は無料です(時間制限はありません)。土日祝日もご相談を承ります(要予約)。

遺言書の原案作成や公正証書遺言の手続きのサポートを承ります。登記は提携司法書士、税務は提携税理士と連携して進めます。相手方との交渉・代理は弁護士の業務です。

この記事を書いた者

成宮隆行 なるみや たかゆき

【保有資格】
社会福祉士(登録番号178261)
ファイナンシャルプランナー(AFP)・2級FP技能士
宅地建物取引士
行政書士(行政書士登録番号第23252144号/日本行政書士会連合会・滋賀県行政書士会会員)
【職歴】
外資系生命保険会社
司法書士事務所での勤務
社会福祉士・FPとして独立
行政書士成宮事務所を開設
【専門分野】
社会福祉士会のぱあとなあ滋賀に所属し、成年後見業務を中心に活動。行政書士事務所開設後は、遺言・終活・生前対策・相続対策にも注力している。
【相談員等】
彦根市:相続遺言相談会相談員、福祉関係相続等研修会:講師

  • URLをコピーしました!
目次