「親の物忘れが増えてきた」「将来、認知症で銀行口座が凍結されたらどうしよう」——そう感じて調べ始めると、必ず出てくるのが「家族信託」と「成年後見制度」という2つの言葉です。どちらも認知症対策として知られていますが、似ているようで仕組みは大きく異なります。
なぜこの違いが重要なのでしょうか。それは、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人(20.6%、推計730万人)が認知症になると予測されており(出典:厚生労働省老健局「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」2019年)、誰にとっても「資産凍結」が他人事ではないからです。さらに、認知症高齢者が保有する資産は2020年時点で不動産・金融資産合わせて約255兆円にのぼると推計されています(出典:三井住友信託銀行「膨らむ認知症高齢者の保有資産」)。この規模の資産が、対策をしないまま判断能力の低下によって動かせなくなるリスクがあるのです。
結論から言うと、両者の最大の違いは「家庭裁判所が関与するかどうか」と「財産管理の自由度」にあります。成年後見制度は家庭裁判所の監督下に置かれ、本人の財産を「守ること」が最優先されるため、積極的な資産活用は原則できません。一方、家族信託は裁判所の関与がなく、家族間で決めたルールに基づいて柔軟に財産を管理・運用できます。
つまり、「裁判所の監督下で財産を守りたいのか」「家族の裁量で柔軟に管理・運用したいのか」によって、選ぶべき制度は変わります。この記事では、両制度の違いを具体的なケースとともに整理し、後悔しない選び方を行政書士の視点から解説します。
※情報は記事執筆時点(2025年10月〜11月時点の資料)のものです。最新の制度内容や費用については、必ず公式機関・専門家にご確認ください。
この記事でわかること
- 家族信託と成年後見制度の根本的な違い
- 費用・開始時期・対象範囲の比較
- よくある失敗例とその回避方法
- 自分の家庭に合った制度を選ぶための具体的なステップ
家族信託と成年後見、よくある疑問8選
家族信託と成年後見制度、一番の違いは何ですか?
最も大きな違いは「家庭裁判所の関与の有無」と「財産管理の自由度」です。
成年後見制度は家庭裁判所の監督下に置かれる制度で、本人の財産を守ること(保全)が最優先されます。そのため、積極的な資産運用や生前贈与は原則として認められません。
一方、家族信託は裁判所が関与せず、家族内で結んだ契約内容に基づいて財産の管理・運用・処分を柔軟に行うことができます。「資産を守る」ことに重点を置くか、「資産を活用する」自由度を重視するかが、制度選びの分かれ道になります。
費用(ランニングコスト)はどちらが安いですか?
原則として、家族信託のほうが費用を抑えやすい傾向にあります。
成年後見制度(法定後見)で司法書士や弁護士などの専門家が選任された場合、管理財産が1,000万円超〜5,000万円以下で月額3万〜4万円程度、5,000万円超では月額5万〜6万円程度の報酬が、本人が亡くなるまで継続的に発生します(基本報酬は月額2万円、出典:大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」)。
これに対し、家族信託では財産を管理する家族(受託者)の報酬を無報酬に設定することも可能で、ランニングコストをかけずに運用できる点が大きな特徴です。ただし、信託契約書の作成費用や不動産がある場合の登記費用など、開始時の初期コストは別途かかります。
すでに親が認知症になってしまった場合でも家族信託は使えますか?
使えません。家族信託も任意後見契約も、契約を結ぶための「判断能力」が本人にあることが前提となる制度です。
すでに判断能力が著しく低下してしまった後では、これらの契約を新たに結ぶことはできず、「法定後見制度」を利用して家庭裁判所に成年後見人等を選んでもらう方法しか残されていません。家族信託・任意後見契約は、いずれも「親が元気なうち」にしか選択できない対策だという点を、強く認識しておく必要があります。
家族信託を使えば、成年後見制度は全く不要になりますか?
必ずしもそうとは言い切れません。家族信託は財産管理に非常に有効な仕組みですが、施設への入所契約や病院の手続きなどを行う「身上監護権」(本人の生活・医療・介護に関する法律行為を行う権限)は含まれていません。
そのため実務では、財産管理は「家族信託」で柔軟に行いつつ、施設入所や医療契約などの身上監護面は「任意後見契約」で補うという、両制度を併用するケースが推奨されることがあります。財産管理と身上監護は別の機能であると理解しておくと、制度選びの判断がしやすくなります。
任意後見契約は自分で作った契約書でも有効ですか?
無効です。任意後見契約は、法律上「公証人が作成する公正証書」によって結ばなければ効力が発生しないと定められています。
家族間だけで作成した私文書(手書きやワープロで作った契約書)では、たとえ本人と支援者の間で合意があったとしても、法的な効力は認められません。実際に、私文書で契約を結んでいたために、いざ親が認知症になった際に制度を利用できなかったというケースも報告されています。任意後見契約を検討する場合は、必ず公証役場での手続きが必要です。
法定後見制度では、必ず家族が後見人になれますか?
なれるとは限りません。法定後見の申立てを行うと、家庭裁判所が審査を行い、誰を成年後見人等に選任するかを決定します。
親族間で意見が対立している場合、本人の財産額が大きい場合、財産管理の内容が複雑な場合などには、家族ではなく司法書士や弁護士といった専門家が選任されることがよくあります。家族を後見人にしたいという希望が必ず通るわけではない点は、申立て前に理解しておくべき重要なポイントです。
任意後見契約を結んでおけば、すぐに家族が財産を管理してくれますか?
すぐにはスタートしません。任意後見契約を結んだだけでは、まだ支援は始まりません。本人の判断能力が実際に低下した段階で、家庭裁判所へ「任意後見監督人」の選任を申立て、監督人が選ばれて初めて契約の効力が発生し、任意後見人としての活動が可能になります。
この申立てを忘れてしまうと、口座凍結などのトラブルが起きてもすぐに対応できない「空白期間」が生じるおそれがあります。契約を結んだことに安心せず、判断能力の低下が見られた段階で速やかに申立てを行うことが重要です。
家族信託はいつから効力が発生しますか?
原則として、委託者(財産を託す本人)と受託者(財産を管理する家族)の間で信託契約を締結した時点から効力が発生します。
家庭裁判所の手続きを経る必要がないため、本人がまだ元気で判断能力があるうちから、財産の管理を受託者に任せることができます。この「契約してすぐに始められる」という即時性は、任意後見契約との大きな違いの一つです。
家族信託・成年後見で後悔しないための5ステップ
理論を理解したうえで、実際にどう行動すればよいのか。ここでは、認知症対策を検討する際に取るべき具体的なステップを紹介します。
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家族の状況を整理する
最初に行うべきは、対策の前提となる情報の整理です。次の3点を書き出してみましょう。
- 本人(親など)の現在の判断能力の状態
- 所有している財産の種類と規模(不動産・預貯金・株式など)
- 家族間の関係性(協力的か、意見の対立があるか)
注意点: 財産額が大きい場合や家族間に対立がある場合は、後述する専門家への早期相談がより重要になります。状況の整理を曖昧にしたまま進めると、後の制度選びを誤る原因になります。
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「事前対策」か「事後対応」かを見極める
家族信託・任意後見契約はいずれも、本人に判断能力があるうちにしか結べません。すでに判断能力が低下している場合は、選択肢は法定後見制度のみになります。
- 本人が元気で判断能力がある → 家族信託・任意後見契約が選択肢に入る
- すでに判断能力が低下している → 法定後見制度のみが選択肢
コツ: 「まだ早いかもしれない」と感じる段階こそが、実は対策のベストタイミングであることが多いです。判断能力の有無は医師の診断によって判断されるため、迷う場合は早めに動くことをおすすめします。
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制度の併用を検討する
財産管理だけでなく、将来の施設入所や医療契約まで見据える場合は、家族信託と任意後見契約の併用を検討しましょう。
- 財産管理・資産活用を重視する部分 → 家族信託でカバー
- 身上監護(施設入所・医療手続きなど)を重視する部分 → 任意後見契約でカバー
注意点: 「どちらか一方を選べば万全」と考えず、本人の状況に応じてカバーすべき範囲を分けて考えることが、対策の漏れを防ぐポイントです。
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行政書士に相談する
制度の比較・選択や契約書の作成は専門性が高く、知識がない状態で個人だけで進めるのは現実的ではありません。まずの相談窓口としては、行政書士が適しています。
行政書士は、家族信託の契約内容の設計や任意後見契約書、遺言書の作成など、生前対策・終活に関わる書類作成全般をワンストップで相談できる窓口です。家族構成や財産状況をふまえて、家族信託・任意後見・遺言のどれを選ぶべきか、あるいはどう組み合わせるべきかを整理するところから対応できます。
なお、不動産を信託する場合に必要な「信託登記」は行政書士の業務範囲外となるため、登記手続きが必要な場合は、行政書士から提携する司法書士へ連携して進める形が一般的です。家族間の対立が大きく将来的に紛争が予想される場合は弁護士、相続税など税務面の影響が大きい場合は税理士への相談が適しています。まずは行政書士に相談し、必要に応じて他の専門家と連携してもらう流れが、初めての方にとって分かりやすい進め方です。
注意点: 専門家にもそれぞれ得意分野があります。最初の窓口で全体像を整理してもらい、必要な手続きごとに適切な専門家へつないでもらう体制を作ることが、スムーズな対策のコツです。
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公正証書・契約書を正式な形で整える
方針が決まったら、契約内容を正式な書面に整えます。特に任意後見契約は、公証役場で「公正証書」として作成しなければ法的効力が発生しません。私文書での作成は無効になるため、この点は絶対に省略できません。
家族信託についても、契約内容を明確に書面化し、不動産が含まれる場合は信託登記まで確実に行うことで、将来のトラブルを防ぐことができます。
注意点: 「契約書を作って終わり」ではなく、任意後見契約は判断能力低下後に家庭裁判所へ監督人選任を申立てるまでが一連の手続きです。空白期間を作らないよう、家族内で「いつ申立てを行うか」の認識を共有しておきましょう。
まとめ
家族信託と成年後見制度は、どちらも認知症による資産凍結に備えるための制度ですが、目的と仕組みが異なります。家族信託は柔軟な財産管理・運用を、成年後見制度(特に法定後見)は裁判所の監督下での財産保全を重視する制度です。いずれも本人に判断能力があるうちにしか選べない対策が多く、「まだ大丈夫」と先延ばしにすることが最大のリスクになります。家族の状況を整理したうえで、早い段階で行政書士などの専門家に相談し、必要な制度を組み合わせて準備を進めることをおすすめします。


参考資料・出典
- 佐伯知哉(2025)『生前対策が全然わかっていない 親子ですが、家族信託って結局どうすればいいのか教えてください!』株式会社すばる舎
- 厚生労働省老健局「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」2019年6月20日
- 三井住友信託銀行「膨らむ認知症高齢者の保有資産」
- 大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」
※本記事の制度内容・費用の目安等は記事執筆時点(2025年10月〜11月頃)の情報に基づきます。法改正や運用の変更があり得るため、実際の手続きにあたっては家庭裁判所・法務局・専門家等の公式情報を必ずご確認ください。
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判断能力が十分なうちであれば、家族信託のご相談、任意後見契約のご相談のいずれも選択できます。
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初回のご相談は無料です(時間制限はありません)。ご相談だけで終わっても構いません。彦根市を中心に、長浜市・米原市・東近江市を含む滋賀県全域に対応しています。
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