障害のある子と暮らす親にとって、「自分が先に亡くなったら」は、いちばん口にしにくい心配ごとです。この記事では、その備えを分け方・お金の渡し方・代わりに動く人の3つに分けて考えます。まず取りかかるのは遺言です。
登場するのは架空の家族です。実際の相談をもとにしたものではありません。
「私が先に逝ったら、この子は」——ある母の独り言
彦根市に住む和子さんは68歳。夫の勝さんは72歳。娘の美咲さんは40歳で、知的障害があります。
美咲さんは、平日は福祉の事業所で働いています。給料日には決まって好きなお菓子を買い、日曜は録画したドラマを見るのが楽しみです。身の回りのことは、自分でできます。
苦手なのは、契約やまとまったお金の管理です。長男の健太さんは大阪で働き、盆と正月に帰ってきます。
和子さんはある夜、洗い物をしながらつぶやきました。「私が先に逝ったら、この子の暮らしとお金は、どうなるんやろ」。
何も備えなかったら、どうなる?
まず、何も備えずに勝さんが亡くなった場合を見てみます。
遺言がないと、遺産の分け方は相続人全員の話し合いで決めます。ところが、その話し合いに加わるには、内容を理解して判断する力が必要です。美咲さんのように判断が難しい人がいると、話し合いが進みません。そこで、家庭裁判所に「成年後見人」を選んでもらうことになる場合があります。
成年後見人とは、本人に代わって財産を管理し、契約や手続きをする人です。ここで、知っておきたいことが3つあります。
- 後見人は家庭裁判所が選びます。家族が候補に挙がっても、その人が選ばれるとは限りません
- 後見人の報酬は、家庭裁判所が決めます
- いったん始まると、本人が亡くなるまで続きます。家族の意思でやめることはできません
「相続の手続きのためだけ」のつもりでも、ずっと続く仕組みです。悪い制度ではありません。ただ、始めるなら、そのことを分かったうえで始めたいものです。裁判所の案内
備えは3つに分けて考える
和子さんの心配を、3つに分けてみます。
| 心配 | 備え | 主な制度 |
|---|---|---|
| 財産を誰に、どう分けるか | 分け方を決めておく | 遺言 |
| お金を、どう渡し続けるか | 一度に渡さず、少しずつ | 特定贈与信託・家族信託・生命保険信託 |
| お金を用意できるか | 掛金で年金や保険金をつくる | しょうがい共済・生命保険 |
| 契約や手続きを誰がするか | 代わりに動く人を決める | 成年後見(必要になったとき) |
全部を一度にそろえる必要はありません。順番に見ていきます。
まず遺言。分け方と「実行する人」を決めておく
勝さんと和子さんは、遺言を書くことにしました。「預金の一部は美咲に。自宅と残りは健太に。健太は、美咲の暮らしを見守ること」。
遺言では、財産の分け方だけでなく、遺言の内容を実現する人(遺言執行者)も決めておけます。遺言執行者がいれば、相続人全員で話し合わなくても、遺言のとおりに手続きを進められます。
気をつけたいのは、美咲さんの取り分を減らしすぎないことです。子には「遺留分」という、法律で守られた最低限の取り分があります。健太さんに多めに残すなら、美咲さんの生活費は別の形で確保しておく。そんな組み立てを考えます。
お金は「一度に」ではなく「少しずつ」渡す
美咲さんに、まとまったお金を一度に渡すのは心配です。そこで、お金を管理する人と渡し方を決めておく「信託」を使います。
- 特定贈与信託。親などが信託銀行にお金を預け、信託銀行が生活費や医療費として定期的に本人へ支払います。親が亡くなっても続き、本人が亡くなるまで終わりません。一定の障害のある方への贈与税が、特別障害者で6,000万円、それ以外の特定障害者で3,000万円までかかりません。信託協会の案内
- 家族信託。健太さんが管理する人(受託者)になり、美咲さんのために使う形です。銀行を通さずに家族で組めますが、健太さんの負担が続きます。くわしくは「家族信託のご相談」で紹介しています。
- 生命保険信託。死亡保険金を信託銀行が受け取り、「毎月いくら」と決めた形で渡す仕組みです。
税の扱いは提携の税理士と連携して確かめます。
お金を「つくる」備えもあります
渡すお金そのものが心配、という家もあります。滋賀県には「心身障害者扶養共済制度(しょうがい共済)」があります。親が掛金を納め、親が亡くなったとき、障害のある子に一生涯の年金が出ます。1口で月額2万円、2口で月額4万円です。
加入できるのは、年度初めの4月1日時点で65歳未満の保護者です。和子さんは68歳なので、この制度には入れません。「もう少し早く知っていれば」と言う人が多い制度です。滋賀県の案内
生命保険も、受取人と渡し方を決めておけば、お金をつくる備えになります。
「代わりに動く人」は、親自身にも必要です
もう1つ、和子さんが見落としていたことがあります。親自身が認知症になったら、誰が美咲さんの手続きを手伝うのか、という問いです。
親が元気なうちに、自分の将来の支援者と支援の内容を決めておくのが「任意後見契約」です。美咲さんのことも含めて、誰に何を頼むかを書き残せます。「任意後見契約」と「老後の備え・生前契約」のページで紹介しています。
半年後。和子さんの独り言は、こう変わった
遺言を公証役場で作り、健太さんとは正月に話しました。健太さんは「妹のこと、ちゃんと聞けてよかった」と言いました。
美咲さんは、相変わらず日曜のドラマを楽しみにしています。和子さんの独り言は「この子はどうなるんやろ」から「ここまでは決めた。あとは少しずつ」に変わりました。
迷ったら、まずご相談を
この家族の話は架空のものですが、「何から手をつければいいか分からない」という声は、めずらしくありません。
社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所は、滋賀県彦根市の行政書士事務所です。当事務所は社会福祉士として成年後見の実務経験があります。福祉の視点を含めて、遺言・信託・後見・保険の組み合わせをご提案できます。登記は提携の司法書士、税は提携の税理士と連携します。
初回相談は無料で、時間の制限はありません。相談だけで終わってもかまいません。遺言づくりの流れと費用は「遺言書の作成」のページで紹介しています。
お電話は 090-9054-1513(電話の受付 9:00〜20:00)です。ご相談は予約制です。


