「遺言を書いたから、もう安心」。そう思っている方に、遺言だけでは足りない3つの場面をお伝えします。①判断する力が下がった後、②遺言があっても残る不公平感、③分けにくい自宅、の3つです。
登場するのは架空の家族です。実際の相談をもとにしたものではありません。
「遺言、書いといたで」と母は言った
彦根市に住む和子さん、78歳。夫を3年前に見送り、今は一人暮らしです。子どもは2人。長女の美穂さんは市内、長男の健一さんは大阪にいます。
ある日、和子さんが美穂さんに言いました。「遺言、書いといたで。家はあんたに、預金は健一に。これでもう安心や」
美穂さんはうれしい半面、少し引っかかりました。「お母さん、それで全部、大丈夫なんかな」。この記事は、その引っかかりの答えです。
場面① 認知症になったら、遺言は助けてくれる?
助けてくれません。遺言の効力が生まれるのは、書いた人が亡くなった時です。生きている間の困りごとには、遺言は届きません。
和子さんの3年後を想像してみます。物忘れが増え、施設への入居を考え始めました。ところが、本人の判断する力が下がると、次のことが難しくなります。
- 預金をまとめて引き出して、入居費用にあてる
- 自宅を売って、代金を介護費用にあてる
- 家の修繕や貸し出しの契約を結ぶ
遺言に「家は美穂に」とあっても、和子さんが生きている間は美穂さんの家ではありません。売ることも貸すこともできないのです。
この「生きている間」に備える仕組みが、家族信託と任意後見です。家族信託は、財産の管理をあらかじめ信頼する家族に託す仕組みです。任意後見は、支えてくれる人と支えの中身を、元気なうちに契約で決めておく制度です。
遺言と、どちらか一方を選ぶものではありません。生きている間は家族信託や任意後見、亡くなった後は遺言。時間で役割を分けて組み合わせるのが基本です。くわしくは「家族信託」と「任意後見契約」のページで紹介しています。
場面② 遺言があれば、もめない?
もめにくくはなりますが、不公平感まではなくせません。遺言は分け方が決まっているので、手続きは進めやすくなります。ただ、内容に大きな偏りがあれば、少なかった人の気持ちは残ります。
和子さんの家に戻ります。財産は、自宅と、わずかな預金。自宅は美穂さんへ、預金は健一さんへ。健一さんは思いました。「姉ちゃんは家で、俺は預金だけか」
ここで知っておきたいのが遺留分です。遺留分とは、一定の相続人に法律で守られた、最低限の取り分のことです。遺言でも、これを奪うことはできません。
遺留分を下回る遺言だと、亡くなった後に、足りない分のお金を請求できます。請求できる期間は、相続と遺留分の侵害を知った時から1年です。遺言のせいで、きょうだいがお金を請求し合う。これでは、和子さんの望んだ「安心」とは逆です。裁判所の案内
争いを避けたいなら、遺留分を確かめることが第一歩です。そのうえで、手続きが終わった後の家族の関係まで考えた内容にします。「その内容で、本当にお母さんの目的は果たせるか」。当事務所では、この視点から一緒に確かめます。遺留分の考え方は「遺留分とは?」にまとめています。
場面③ 自宅は、どうやって分ける?
自宅は切って分けられません。財産の大半が自宅で、預金が少ない家では、ここがいちばんの難所です。
一つの方法が代償金です。自宅をもらう人が、ほかの相続人にお金を払って釣り合いをとります。和子さんの家なら、美穂さんが健一さんにお金を渡す形です。問題は、そのお金をどう用意するかです。
ここで生命保険という選択肢が出てきます。和子さんが、受取人を美穂さんにした生命保険に入っておきます。すると保険金は、遺産分けの話し合いを経ずに美穂さんへ渡ります。それを代償金にあてられます。
また、相続人が受け取る死亡保険金には非課税枠があります。相続税の計算で「500万円×法定相続人の数」までは課税されません。生前対策で保険が使われる理由の一つです。相続税がかかるかどうかや税額の計算は税理士の業務ですので、提携税理士と連携します。国税庁の案内
当事務所は保険代理店としての対応も可能です。「その分け方を実現するお金をどう用意するか」まで、遺言の内容を考える段階から一体でご相談いただけます。
遺言は「ゴール」ではなく「部品」の一つ
美穂さんの引っかかりは、正しかったのです。和子さんの「安心」を形にするには、こんな組み合わせが考えられます。
- 生きている間の備え:家族信託か任意後見
- 亡くなった後の分け方:遺留分を確かめた遺言
- 分け方を実現するお金:生命保険
遺言を書くこと自体は、とてもよい一歩です。ただ、専門家に頼む意味は、きれいな書面を作ることではありません。「その遺言で、困りごとは解決するのか」を一緒に確かめることにあります。
迷ったら、まずご相談を
この家族の話は架空のものです。ただ、「遺言を書いたから安心」が足りなかった、という話はめずらしくありません。
社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所は、滋賀県彦根市の行政書士事務所です。福祉・法律・お金の3つの視点から、遺言にこだわらず、目的が果たせる形を一緒に考えます。生前対策の全体像は「相続への備え(生前対策)」のページにまとめています。
初回相談は無料で、時間の制限はありません。相談だけで終わってもかまいません。遺言づくりの流れと費用は「遺言書の作成」のページで紹介しています。
お電話は 090-9054-1513(電話の受付 9:00〜20:00)です。ご相談は予約制です。


