※登場するのは架空の人物で、実際の相談をもとにしたものではありません。
彦根に住む和夫さん(72)は、遺言書の下書きを前に手が止まっています。「遺言執行者」を誰にするか、決めかねているのです。妻の節子さん(70)が、向かいから声をかけました。
節子「なあ、この執行者っていうの、長男の名前でええんかな」
和夫「あの子、大阪やし平日は休めへんやろ。手続きできるんか」
節子「そやけど、よう知らん人に頼むのも気が引けるわ」
和夫「決めんまま置いとくのが、かえって困るんとちがう?」
遺言執行者を子どもに頼むか、専門家に頼むか。これから遺言を書く方へ、それぞれの向き不向きと、迷ったときの決め方を順にお伝えします。
遺言執行者とは何をする人?
遺言執行者とは、遺言の内容を実際に実行する人です。遺言に「この家は長男に」と書いても、名義が勝手に変わるわけではありません。その手続きを進める係が遺言執行者です。
主な仕事は、次の三つです。
- 相続人(財産を受け継ぐ家族)に、遺言の内容を知らせる
- 財産目録(財産の一覧表)を作って、相続人に渡す
- 預貯金・株式・不動産など、財産ごとの名義変更や解約の手続きをする
相手先ごとに必要な書類が違い、平日に動く場面が多くなります。遺言を実現するのに必要なことを行う権利と義務を持ち(民法1012条)、相続人の代理人ではなく、遺言の内容を実現する立場です。
遺言執行者は誰でもなれる? 家族でもいい?
未成年者と破産者(破産の手続きを受けて、まだ立ち直りの手続きが済んでいない人)以外なら、誰でもなれます(民法1009条)。子どもでも親族でも、専門家でもかまいません。
遺言書では、一人でも数人でも指定できます(民法1006条1項)。「誰にするかは〇〇さんに決めてもらう」と、選ぶ役を第三者に任せることもできます。
ひとつ気をつけたいのは、指定された人は引き受けることも断ることもできる点です。黙って名前を書くより、生前に「頼むで」と一言伝えておくと安心です。
子どもに頼む場合の向き不向き
身近で、費用がかからないのが子どもの良さです。家の事情をよく知っていますから、話も早いでしょう。
ただ、次のような場面では負担が重くなりがちです。
- きょうだいの間で「なぜあの人が」と気まずくなりやすい
- 遠方に住んでいる、仕事があるなどで平日に動けない
- 子ども自身も高齢になっていることがある
執行者は、遺言の内容どおりに進める立場です。きょうだいの一人が担うと、ほかのきょうだいとの間で気をつかう場面が出てくることは、頭に置いておきたいところです。
専門家に頼む場合の向き不向き
手続きに慣れていて、相続人のどちらにも寄らない立場で進められるのが専門家の良さです。平日に窓口へ出向くのも仕事のうちですから、家族の手間は減ります。
一方で、報酬がかかります。報酬は遺言書に書いておくことができます(民法1018条1項)。書いていないときは、家庭裁判所が財産の状況などを見て定めることもできます。
費用は事務所ごとに違います。当事務所では、執行する財産が300万円以下なら269,500円(税込)です。報酬は原則として、任務が終わってからの精算です。
なお、信託銀行などにも遺言の執行を扱うところがあります。内容や費用はそれぞれ違いますので、利用するなら直接確かめてください。
「子どもの名前にしたいけど、実務は心配」という方には、間をとる形もあります。遺言執行者は、自分の責任で任務を第三者に任せることができます(民法1016条1項。遺言書に別の定めがあればそれに従います)。名前は子どものまま、書類集めや窓口の手続きだけ専門家に手伝ってもらう、という選び方です。
遺言執行者を決めておくと何が楽になる?
遺言書で決めておくと、亡くなった後に家族が家庭裁判所へ申し立てる手間が要りません。
遺言執行者がいないときは、家族などの利害関係人が家庭裁判所に請求して選んでもらうことになります(民法1010条)。悲しみの中で裁判所の書類を整えるのは、思いのほか骨の折れる作業です。
だからこそ、遺言書の作成と同時に、誰に頼むかまで決めておくと安心です。子どもにするなら本人に一言、専門家にするなら顔を合わせて話しておく。それだけで、残される家族の負担はずいぶん軽くなります。
和夫さんは、下書きの余白にこう書き足しました。「執行者は長男。手続きは専門家に手伝ってもらう」。
節子「なるほどな。名前はあの子のままで、手続きだけ手伝ってもらう形もあるんやな」
和夫「それやったら、あの子も気が楽やろ」
節子「せやな。遺言書と一緒に、執行者のことも聞いてみよか」
和夫「うん。まず話だけ聞いてみよ」
ふたりは、近くの事務所に話を聞いてみることにしました。
社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所(滋賀県彦根市)では、行政書士として、遺言の作成から遺言執行者への就任まで、また子どもが執行者になる場合の実務のお手伝いもしています。くわしくは「遺言執行のご相談」をご覧ください。お電話(090-9054-1513・9:00〜20:00)でも、メール・LINEでもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。
※この記事の人物とお話は架空のものです。


