※登場するのは架空の人物で、実際の相談をもとにしたものではありません。
任意後見の契約を結んでいれば、原則として任意後見が優先されます。ただ、家庭裁判所が「本人のために特に必要」と判断したときは、法定後見に切り替わることがあります。多くは、契約の中身を工夫しておくことで避けられます。
彦根に住む美智子さん(70代)は、5年前に長男の隆さんと任意後見の契約を結びました。最近、物忘れが増えてきたため、隆さんは任意後見を始める準備をしています。
そんなとき、美智子さんの家に、高い健康食品の定期購入の書類が届きました。
「これ、お母さんが電話で申し込んだらしいねん。任意後見人になったら、取り消せるんやろか」
隆さんは、契約書を読み返して首をかしげました。
任意後見と法定後見の違い
成年後見には2つの仕組みがあります。違いは「誰が、何を、いつ決めるか」です。
| 任意後見 | 法定後見 | |
|---|---|---|
| 誰が後見人を決める | 本人が元気なうちに選ぶ | 家庭裁判所が選ぶ |
| 任せる中身 | 契約で決めた範囲 | 法律で決まった範囲 |
| 本人がした契約の取り消し | できない | できる(類型による) |
| 始まるとき | 監督人が選ばれたとき | 家庭裁判所の審判のとき |
任意後見は、自分で選んだ人に、自分で決めた範囲を任せる仕組みです。そのため、法律は任意後見を優先させています。
法定後見に切り替わるのは「特に必要」なときだけ
任意後見の契約が登記されているとき、家庭裁判所が法定後見を始められるのは「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限られます。本人の決めたことを、できるだけ尊重するためです。
いまの法律では、任意後見が始まった後に法定後見が始まると、任意後見の契約は終わります。せっかく選んだ人や決めた範囲が、そこで使えなくなります。ただし、この点は法律の改正で変わる予定です(後の見出しで紹介します)。
法定後見が必要になりやすい3つの場面
成年後見の仕事をしていると、次のような場面で法定後見が検討されることがあります。
| 場面 | なぜ任意後見では足りないか |
|---|---|
| 本人がした不利な契約を取り消したい | 任意後見人には取り消す権限がない |
| 任せる範囲が狭く、必要な手続きができない | 契約にない手続きは代わりにできない |
| 任された人が病気や高齢で動けない | 代わりの人が決まっていない |
隆さんが困ったのは、1つ目の場面です。任意後見人は、美智子さんの代わりに契約を結んだり、お金を払ったりできます。でも、美智子さんが自分でした契約を、後から取り消す権限はありません。
ただ、取り消す権限がなくても打てる手はあります。クーリング・オフや、消費生活センターへの相談です。こうした手段で解決できるなら、法定後見に切り替える必要はありません。
契約で決めておきたい3つのこと
法定後見への切り替えは、最後の手段です。任意後見の契約を結ぶときに、次の3つを考えておくと、切り替えずにすむ場面が増えます。
- 任せる範囲を広めにとる(預貯金・不動産・介護や施設の契約・年金・保険・税金の手続き)
- 任される人を2人にする、または代わりの人を考えておく
- 財産管理委任契約や見守り契約とセットにして、早めに異変に気づけるようにする
特に、任せる範囲(代理権目録)は、契約の後から足すのが大変です。範囲を広げるには、改めて公証役場での手続きが要ります。元気なうちに、将来の暮らしを思い浮かべながら決めておきましょう。
親の入院をきっかけにした備え方は「親が入院、そのまま施設へ。支払いや契約は誰がする?」で紹介しています。
2026年に成立した改正で、成年後見の仕組みが変わる
2026年6月、成年後見の仕組みを見直す法律(民法等の一部を改正する法律)が公布されました。成年後見の部分は、公布から2年6か月以内に始まります。法務省の資料によると、主な変更は次のとおりです。
- 法定後見の「後見・保佐・補助」の3つを、「補助」に一本化する
- 補助を使い始めても、任意後見の契約を続けられるようにする
- 任意後見を始める申し立てを、本人が公正証書で指定した人もできるようにする
改正が始まれば、「法定後見に切り替えると任意後見が終わる」という心配は小さくなります。ただ、任意後見人に取り消す権限がないことや、任せる範囲が契約で決まることは変わりません。契約の中身を考えておく大切さは、改正の後も同じです。
始まる日は、これから政令で決まります。改正の内容は、決まりしだいこのサイトでもお知らせします。
まとめ:任意後見は「中身」で守る
任意後見の契約は、結んだことよりも、何を決めたかで力が変わります。法律は任意後見を優先しますが、中身が足りないと法定後見に頼ることになります。
隆さんは、健康食品の件を消費生活センターに相談し、解約できました。そして、美智子さんの任意後見を始める申し立ての準備を進めています。
「契約のときに、お母さんと一緒にもっと話しておけばよかったわ」と、隆さんは言います。
社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所(滋賀県彦根市)では、任意後見契約の設計から公正証書での作成まで、行政書士がお手伝いします。成年後見の仕事を続けている社会福祉士として、契約の後の暮らしまで見すえて組み立てます。詳しくは「任意後見契約」をご覧ください。お電話(090-9054-1513・9:00〜20:00)でも、メール・LINEでもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。
※この記事の人物とお話は架空のものです。


