※登場するのは架空の人物で、実際の相談をもとにしたものではありません。
田んぼや畑を遺言で子に遺すなら、農業委員会の許可は要りません。ただし、相続人でない孫や子の妻に、特定の田を指定して遺すと、許可が要ります。許可が下りなければ、遺言どおりに渡らないこともあります。
米原に住む茂さん(70代)は、田んぼを5枚持っています。会社勤めの長男とは別に、休みの日に田植えを手伝ってくれる孫がいます。
「いちばん手のかかる田は、あの子に遺したいんや」
茂さんは、そう遺言に書くつもりでした。
誰に遺すかで、手続きが変わる
農地を売ったり譲ったりするには、原則として農業委員会の許可が要ります。遺言で遺す場合も、相手によっては同じです。
| 遺す相手 | 農業委員会の許可 | その後の手続き |
|---|---|---|
| 子など相続人 | 要らない | 農業委員会への届出、相続登記 |
| 孫・子の妻など相続人でない人(特定の田を指定) | 要る | 許可を受けてから名義を移す |
孫は、親(茂さんの子)が亡くなっていて代わりに相続人になる場合を除き、相続人ではありません。茂さんの孫も、相続人ではない側に入ります。
子に遺すとき:許可は不要、届出と登記は必要
長男のように相続人に遺すなら、許可は要りません。ただし、次の2つの手続きは必要です。
- 農業委員会への届出:相続を知ってからおおむね10か月以内
- 法務局への相続登記:取得を知った日から3年以内
届出をしなかったり、うその届出をしたりすると、10万円以下の過料(罰金のようなお金)の対象になります。相続登記も、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。
2つは窓口も目的も別の手続きです。彦根市の場合は「農地法の規定による許可申請・届出の手引き」に届出の案内があります。正確な期限は、農地のある市町の農業委員会で確かめましょう。
孫や子の妻に遺すとき:許可が要り、下りないこともある
相続人でない人に、特定の田を指定して遺すと、農業委員会の許可が要ります。許可には、農地をきちんと耕作できるか、ふだんから農作業をしているか、といった条件があります。
以前は「一定の広さ以上を耕作していること」という面積の条件もありました。これは2023年4月に廃止され、小さな田でも許可を受けやすくなりました。それでも、ほかの条件を満たさなければ、許可が下りないことがあります。
茂さんの孫は、会社勤めのかたわら手伝っている程度です。許可の条件を満たせるかは、農業委員会に確かめてみないと分かりません。
税金:農地の「納税猶予」は相続人だけ
農地には、相続税の支払いを先に延ばせる「納税猶予」という仕組みがあります。遺言で受け取った農地も対象です。
ただし、使えるのは相続人だけです。主な条件は次のとおりです。
- 相続税の申告期限までに農業を始める(農業委員会の証明が要る)
- 期限内に申告し、猶予される税金に見合う担保を出す
- 途中で農業をやめると、猶予された税金に利子をつけて納める
相続人でない孫は、この仕組みを使えません。さらに、孫が遺言で受け取ると、相続税が2割増しになります。詳しくは「孫や息子の妻に遺言で遺すと、相続税は2割増し?」をご覧ください。猶予を使えるか、税金がいくらになるかは、税理士に確かめてもらいましょう。
継ぐ人がいないとき:国に引き取ってもらう制度も
誰も田を継がない家もあります。相続した土地を国に引き取ってもらう制度があり、農地も申請できます。
ただし、申請できるのは相続人だけで、条件も多く、引き取ってもらえるとは限りません。費用もかかります。まずは農業委員会に、貸す・譲るといった道がないか相談してみましょう。
茂さんが選んだ遺し方
茂さんは、農業委員会で許可の条件を聞いたうえで、田は全部長男に遺すことにしました。孫には遺言で預金の一部を遺し、田の世話はこれまでどおり長男と一緒に手伝ってもらうことにしています。
「田んぼの行き先も、手伝うてくれる孫のことも、両方決められてよかったわ」と、茂さんは話しています。
まとめ:農地の遺言は「誰に・どう遺すか」を先に確かめる
農地は、子に遺すなら許可は要りませんが、届出と登記が必要です。相続人でない人に特定の田を遺すと許可が要り、税金の猶予も使えません。遺言を書く前に、相手ごとの手続きと税金を確かめておきましょう。
社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所(滋賀県彦根市)では、田畑を含む財産の整理から公正証書遺言の準備まで、行政書士がお手伝いします。相続登記は提携の司法書士、税金は提携の税理士と連携します。進め方は「遺言書の作成・活用のご相談」をご覧ください。お電話(090-9054-1513・9:00〜20:00)でも、メール・LINEでもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。
※この記事の人物とお話は架空のものです。


