※登場するのは架空の人物で、実際の相談をもとにしたものではありません。
葬儀やお墓の希望を遺言に書いておけば安心、とは限りません。遺言は葬儀のあとに開かれることが多く、葬儀のやり方は法律上「お願い」にとどまるからです。亡くなった後の手続きは、遺言と「死後事務委任契約」に分けて頼むのが確かな方法です。
彦根でひとり暮らしをする文子さん(70代)は、子どもがいません。いちばん近い身内は、大阪に住む甥の大輔さんです。
文子さんは、自分で書いた遺言を大輔さんに見せました。
「お葬式は家族だけで。お骨はお寺の納骨堂に。ちゃんと書いといたから」
大輔さんは少し考えて言いました。
「おばちゃん、これ、いつ開けるん? お葬式が終わってからやったら、間に合わへんで」
遺言は、葬儀のあとに開かれることが多い
人が亡くなると、葬儀や火葬は数日のうちに行われます。一方、遺言はその前に開かれるとは限りません。
自分で書いた遺言(自筆証書遺言)は、家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きを受けてから使うのが決まりです。封がしてあれば、勝手に開けることもできません。検認には日数がかかるため、葬儀には間に合わないのがふつうです。
法務局に預けた自筆の遺言や、公証役場で作る公正証書遺言は、検認が要りません。それでも、家族が遺言の存在を知らなければ、葬儀の前に読まれることはありません。
葬儀の希望は、遺言に書いても「お願い」にとどまる
遺言に書いて法律上の効力が生じるのは、財産を誰に渡すかなど、決められた事項です。葬儀のやり方や納骨の場所は、その中に入っていません。
遺言に書くことはできます。ただし、家族への「お願い」として添える付言事項(ふげんじこう)の扱いです。家族が守ってくれれば実現しますが、守らせる力はありません。
なお、お墓や仏壇を引き継ぐ人(祭祀主宰者・さいししゅさいしゃ)は、本人が指定できると民法に定めがあります。遺言で指定しておくこともできます。
亡くなった後の手続きは、思ったより多い
葬儀のほかにも、亡くなった直後から手続きが続きます。主なものと期限の目安は次のとおりです。
| 手続き | 期限の目安 |
|---|---|
| 死亡届・火葬の許可の申請 | 亡くなったことを知った日から7日以内 |
| 世帯主の変更届 | 14日以内 |
| 年金の受給を止める届け | 国民年金14日以内・厚生年金10日以内 |
| 健康保険・介護保険の資格をなくす手続き | 14日以内 |
このほかに、病院や施設の費用の支払い、家賃や公共料金の解約、家の片付けもあります。ひとり暮らしの人の場合、これを誰が担うかを決めておかないと、遠くの親族に負担が集中します。
遺言と死後事務委任、どちらに何を書く?
財産の行き先は遺言に、亡くなった後の事務は死後事務委任契約に。この分け方が基本です。
| 頼みたいこと | 書く先 |
|---|---|
| 財産を誰に渡すか | 遺言 |
| お墓を引き継ぐ人 | 遺言(ほかの方法でも指定できる) |
| 葬儀・火葬・納骨の手配 | 死後事務委任契約 |
| 役所への届け出・年金や保険の手続き | 死後事務委任契約 |
| 入院費や家賃の支払い・契約の解約 | 死後事務委任契約 |
| 家の片付け・遺品の整理 | 死後事務委任契約 |
死後事務委任契約は、亡くなった後の事務を、生きているうちに信頼できる人へ頼んでおく契約です。頼む相手は、親族でも専門職でもかまいません。
親族に頼む場合も、契約書で頼む範囲をはっきりさせておくと、病院や役所で「何の権限で来たのか」と聞かれたときに説明しやすくなります。遠くに住む親族や、高齢の兄弟姉妹に頼むのが難しいときは、専門職に頼む方法もあります。
費用はどうやって払ってもらう?
本人が亡くなった後に動いてもらうので、費用の払い方を先に決めておく必要があります。
葬儀費用などをあらかじめ預けておく方法と、支払いの方法を契約書で決めておく方法があります。どちらが合うかは、財産の内容や、遺言の中身との組み合わせで変わります。
もう一つの注意は、契約の形です。法律では、委任の契約は本人が亡くなると終わるのが原則です。そのため、亡くなった後も続く契約であることを契約書にはっきり書き、公正証書にしておくのが安心です。
まとめ:遺言と死後事務委任は、2つでひと組
葬儀やお墓の希望は、遺言に書いても間に合わないことがあり、法律上は「お願い」にとどまります。財産の行き先は遺言で、葬儀や手続きは死後事務委任契約で頼んでおくと、本人の希望どおりに進めやすくなります。
文子さんはその後、大輔さんを受け取る人にした遺言を公正証書で作り直しました。葬儀や納骨、家の片付けは、死後事務委任契約で専門職に頼みました。
「これで大輔に、仕事を休んで来てもらわんですむわ」と、文子さんは笑っていました。
見守りや任意後見も含めた全体の組み合わせは「子どもがいない・ひとり暮らし。入院や亡くなった後の手続きは、誰に頼めばいい?」で紹介しています。財産の行き先を決める遺言は「遺言書の作成」をご覧ください。
社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所(滋賀県彦根市)では、死後事務委任契約の設計から公正証書での作成、亡くなった後の手続きまで、行政書士がお手伝いします。くわしくは「死後事務委任契約」をご覧ください。お電話(090-9054-1513・9:00〜20:00)でも、メール・LINEでもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。
※この記事の人物とお話は架空のものです。


