親に遺言を書いてほしい。でも、どう言えばいいのか分からない。
この記事では、ある家族の「失敗した日」と「うまくいった日」を追いながら、切り出し方のコツをお伝えします。
登場するのは架空の家族です。実際の相談をもとにしたものではありません。でも、似た場面は、どこの家にもあります。
失敗した日:お盆の食卓で
彦根の実家。お盆の夕食に、久しぶりに家族がそろいました。父は70代、母も同じくらい。県外に住む長女の由美さんと、近くに住む長男の健一さんです。
ビールが2本目に入ったころ、由美さんが切り出しました。
「お父さん、遺言書いといてよ。友だちの家、相続でもめて大変だったんだって」
父は、箸を止めました。「……まだ早いわ」。それきり、テレビの音だけが残りました。母は台所へ立ち、健一さんは天井を見ています。
由美さんに悪気はありません。家族のためを思って言いました。ではなぜ、こんな空気になったのでしょう。
なぜ、あの一言で止まったのか
理由は3つあります。
1つ目は、「遺言」から入ったこと。親には「死ぬ準備をしろ」と聞こえます。
2つ目は、「もめて大変」と、子の心配を先に出したこと。親は「自分のことより、財産の話か」と感じます。
3つ目は、きょうだいに前ぶれがなかったこと。健一さんは何も聞いていなかったので、口をはさめませんでした。
つまり、言葉の選び方と順番の問題です。中身が悪かったわけではありません。
遺言があると、家族の何が楽になる?
ここで少しだけ、遺言の役目を確かめておきます。
遺言がないと、親の財産の分け方は、相続人全員の話し合いで決めます。これを「遺産分割協議」といいます。全員が納得するまで、預金の解約や実家の名義変更が進みにくくなります。
遺言があれば、親が決めた分け方をもとに手続きを進められます。家族が「親はどうしたかったのか」と推し量る必要も減ります。
つまり遺言は、親の思いを、そのまま形にして残すものです。由美さんに足りなかったのは、この視点でした。ちなみに、話し合いの進め方は「遺産分割協議に関する基礎知識」で紹介しています。
こんな家は、特に話しておきたい
次のような家では、遺言があるかどうかで、残された家族の負担が大きく変わります。
- 子どもがいない夫婦:配偶者と、自分の兄弟姉妹などが相続人になることがあります(子どもがいない夫婦に遺言書が必要な理由)
- 前の結婚で生まれた子がいる:今の家族と、会ったことのない子が話し合うことになります(前妻との子がいる場合)
- 実家を継ぐ人が決まっていない:誰が住むか、売るかで意見が割れやすくなります
- 財産のほとんどが実家(不動産):預金が少ないと、平等に分けるのが難しくなります
由美さんの家は、3つ目と4つ目に当てはまります。実家は父の名義。健一さんは近くに家を建てていて、由美さんは県外。誰が継ぐのか、決まっていません。
立て直しの準備:きょうだいで作戦会議
お盆が明けて、由美さんは健一さんに電話をかけました。
「この前はごめん。いきなり言いすぎた」
「びっくりしたわ。でも、話しとかなあかんとは思ってた」
2人で決めたのは、次の3つです。
- 次は健一さんが聞き役になる(父と一番話しやすいのは健一さん)
- 「遺言」という言葉は、こちらから出さない
- 聞くのは「実家をどうしたいか」の1つだけにする
きょうだいがいる家では、この前ぶれが大切です。一人だけで動くと、「自分に有利に書かせようとしている」と誤解されることがあります。
うまくいった日:物置の片づけで
秋のある土曜日。健一さんは、父と実家の物置を片づけていました。古いスキー板、使わなくなった漬物樽、由美さんの学習机。
「この机、まだ置いとくんか」
「由美が嫁に行くとき、持っていかんかったからな」
ひと段落ついて、縁側で麦茶を飲みながら、健一さんは言いました。
「なあ、この家、この先どうしたい? 俺は近くにおるけど、由美は遠いし」
父はしばらく黙って、庭を見ていました。
「……ほんまは、誰かに住んでほしい。売るのは寂しい」
これが、父の本音でした。お盆の日には、一度も出てこなかった言葉です。
健一さんは「そうか」とだけ言って、麦茶を飲みました。この日はここまで。それで十分です。
伝わりやすい言い方、伝わりにくい言い方
由美さんの言い方と、健一さんの言い方を並べると、違いがよく分かります。
| 伝わりにくい言い方 | 伝わりやすい言い方 |
|---|---|
| 「遺言を書いておいてよ」 | 「この家のこと、どうしたいか聞いておきたいな」 |
| 「もめたら困るから」 | 「お父さんの考えどおりにしてあげたいから」 |
| 「元気なうちに早く」 | 「急がないから、考えておいてくれる?」 |
| 「財産はいくらあるの?」 | 「どこの銀行を使っているかだけ、教えておいて」 |
共通しているのは、親の気持ちを聞く形にすることです。子の都合を先に出すと、親は身構えます。
親にこう言われたら、どう返す?
父の「まだ早い」のほかにも、よくある反応があります。どれも、言い負かさずに「聞く姿勢」を続けるのがコツです。
「縁起でもない」
「そうだよね。元気な今だから、落ち着いて聞けると思って」。亡くなる話ではなく、「これからの話」に置き直します。
「うちは財産なんてないから」
「実家のことだけでも聞いておきたいな」と、実家に絞ります。財産が少なくても、実家をどうするかで意見が割れることはよくあります。
「子どもたちで仲良く分けて」
「ありがとう。でもお母さんの希望があれば、それを大事にしたいんだ」。親の信頼はうれしいものですが、希望が分からないと、子は迷います。
「まだ早い」
無理に進めず、「分かった、また聞かせてね」でいったん引きます。健一さんがそうしたように、次の機会につながります。
ただし、遺言は、書く本人が内容を理解できる状態でないと作れません。物忘れが気になりはじめている場合は、早めに話しておくほうが安心です。認知症と財産の関係は「親が認知症になったら、実家やお金はどうなる?」にまとめています。
子が代わりに書いてしまってもいい?
由美さんは、一度こう考えました。「私が文面を作って、お父さんに名前だけ書いてもらえば早いのでは」。
これは、やめてください。遺言は、親が自分の意思で書くものです。
自分で書く遺言(自筆証書遺言)は、原則として本文を本人がすべて手書きします(財産の一覧は、パソコンで作ったものでもかまいません)。子が書いた遺言は、それだけで無効になるおそれがあります。
それに、子が主導した遺言は、ほかのきょうだいから「言わされたのでは」と疑われやすくなります。父の「誰かに住んでほしい」という思いを守るためにも、中身は父が決め、子は聞き役に回るのが安心です。
公証役場で作る遺言(公正証書遺言)なら、公証人(遺言などの書類を作る法律の専門家)が本人の意思を確かめながら作ります。種類の違いは「自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の違い」で紹介しています。
その後:父が自分から言い出した
物置の日から、ひと月ほどたったころ。父が健一さんに、ぽつりと言いました。
「この前の話やけどな。ちゃんと書いといたほうがええんか」
健一さんは、あわてず答えました。「書くなら、まず3つだけ紙に出してみたら?」
- 誰に、何を残したいか:「家は健一に」「預金は2人で等分に」など
- 財産のおおまかな一覧:家と土地、預金のある銀行、保険など
- 気がかりなこと:「由美に何も残さないのは気が引ける」など
父は、その晩のうちに書いたそうです。3つ目には「由美には申し訳ない」とありました。この一言があったからこそ、あとで由美さんへの配慮も含めて、中身を考えることができました。
中身を決めるときに、気をつけたいこと
父のように「家は健一に」と特定の子に多く残したいときは、「遺留分」に気をつけます。遺留分とは、一定の相続人に法律で守られた最低限の取り分のことです。
遺留分を考えずに書くと、あとで取り分を求められ、かえって家族がもめるおそれがあります。くわしくは「遺留分とは?」をご覧ください。
また、自分で書いた遺言は、日付や署名が抜けていると無効になるおそれがあります。書き終えたら、専門家に一度見てもらうと安心です。
迷ったら、まずご相談を
この家族の話は架空のものですが、「お盆の失敗」も「物置の一言」も、めずらしいことではありません。もちろん、いつもこのように上手く行くわけではありませんが、切り出し方ひとつで、親の本音は出てきます。要は、親の気持ちを上手く引き出していき、そこに遺言の必要性を結びつけていくことです。
遺言を形にする段階では、社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所は、滋賀県彦根市の行政書士事務所で、遺言の作り方だけでなく、老後の暮らしやお金の見通しも一緒に整理できますので、御役に立てると思います。
初回相談は無料で、時間の制限はありません。相談だけで終わってもかまいません。遺言づくりの流れと費用は「遺言書の作成」のページで紹介しています。
お電話は 090-9054-1513(電話の受付 9:00〜20:00)です。ご相談は予約制です。


