「全部妻に」の遺言は、相続税で本当に得? 次の相続と自宅、妻の暮らしから考える

「全部妻に」の遺言と相続税。1回目は軽くなる、2回目に重くなりがち、妻の暮らしも考えるの3項目を挿絵付きのカードで紹介する図。

※登場するのは架空の人物で、実際の相談をもとにしたものではありません。

「全部妻に」の遺言にすると、夫が亡くなったときの相続税は軽くなります。配偶者には大きな軽減があるからです。ただ、妻が亡くなったときの次の相続(二次相続)では、この軽減が使えず、税金が重くなりやすくなります。税金と、妻のこれからの暮らしを、一緒に考えて決めましょう。

彦根に住む和夫さん(70代)は、遺言を書こうとしています。財産は自宅と預貯金、それに少しの株です。
「わしの財産は全部、母さんに。母さんが困らんのがいちばんや」
それを聞いた長男が、言いにくそうに切り出しました。
「お父さん、それやと、お母さんのときに税金が増えるって聞いたで」

目次

1回目の相続:妻が受け取れば、相続税はかかりにくい

夫が亡くなったとき、妻が受け取る財産には「配偶者の税額軽減」という仕組みがあります。妻が受け取った財産が、1億6千万円か、妻の法定相続分のどちらか多い金額までなら、相続税はかかりません。

ですから、「全部妻に」にすると、1回目の相続税はほとんどかからない家が多くなります。ただし、この軽減を使うには、相続税の申告をする必要があります。「税金がゼロだから何もしなくていい」わけではありません。

2回目の相続(二次相続)で重くなりやすい2つの理由

次に妻が亡くなると、財産は子どもたちに移ります。このときの相続税が、二次相続の税金です。重くなりやすい理由は2つです。

  • 配偶者の税額軽減が使えない(もう配偶者がいないため)
  • 相続人が1人減るので、税金がかからない枠が小さくなる

相続税には、「3,000万円+600万円×相続人の数」までは税金がかからない枠(基礎控除)があります。和夫さんの家なら、1回目の相続人は妻と子ども2人の3人です。2回目は子ども2人だけになり、枠が600万円小さくなります。生命保険の非課税枠(500万円×相続人の数)も、同じように小さくなります。

1回目(夫が亡くなったとき)2回目(妻が亡くなったとき)
配偶者の税額軽減使える使えない
相続人の数(和夫さんの家)3人2人
税金がかからない枠(基礎控除)4,800万円4,200万円
妻の財産妻のもとの財産妻のもとの財産+夫から受け取った財産

さらに、2回目には、妻がもともと持っていた財産に、夫から受け取った財産が上乗せされます。「全部妻に」にすると、1回目が軽い代わりに、2回目にまとめて重くなることがある、ということです。

自宅は誰に?「小規模宅地等の特例」との関係

自宅の土地には、「小規模宅地等の特例」という仕組みがあります。亡くなった人が住んでいた土地は、330㎡までなら、相続税を計算するときの評価を80%下げられます。

この特例は、妻が受け継ぐなら、特に条件なく使えます。一方で、子どもが受け継ぐ場合は、一緒に住んでいたかどうかなどの条件があります。

和夫さんの家のように、子どもが家を出ている場合、2回目の相続では特例が使えないこともあります。自宅を誰が継ぐかは、税金の面でも、2回目まで見通して決めることが大切です。

税金だけで決めない:妻の暮らしと、認知症への備え

ここまで読むと、「1回目から子どもにも分けたほうがいい」と思うかもしれません。でも、税金だけで決めると、妻の暮らしが苦しくなることがあります。

FP・社会福祉士の立場から、次の2つを一緒に確かめることをおすすめしています。

  • 妻の生活費:年金と預貯金で、施設に入ったときの費用も含めて暮らしていけるか
  • 妻が認知症になったとき:受け取った預金が動かしにくくなり、妻自身の遺言も書けなくなる

特に2つ目は見落としがちです。妻が認知症になると、2回目の相続の分け方を、妻が決められなくなります。妻にも元気なうちに遺言を書いてもらうことや、任意後見の契約で備えることも考えておきましょう。

妻が先に亡くなった場合の書き方は「「全部妻に」の遺言は、夫婦2通でひと組」で紹介しています。

決め方の例:「全部妻に」か、一部を子どもに

和夫さんの家で考えられる分け方は、たとえば次の2つです。

分け方よいところ気をつけるところ
全部妻に妻の暮らしと住まいが守られる。1回目の税金が軽い2回目の税金が重くなりやすい
自宅と生活費は妻に、残りの一部を子に2回目に上乗せされる財産が減る妻の手元のお金が足りるか確かめる

どちらがよいかは、財産の額と、妻の年金や暮らし方によって変わります。正解は家ごとに違います。

税金の試算は税理士、遺言の設計は当事務所

1回目と2回目を合わせた税金がいくらになるかは、税理士に試算してもらうのが確かです。相続税の計算は、税理士の仕事だからです。

当事務所では、まず財産と家族の状況、妻の暮らしの見通しを一緒に整理します。財産が多く、税金の影響が大きそうな家は、提携の税理士に試算をお願いします。その結果を踏まえて、遺言の中身を組み立てます。

相続税の基本は「相続税の基礎控除とは?」でも紹介しています。

まとめ:1回目と2回目を、ひと続きで考える

「全部妻に」の遺言は、残された妻の暮らしを守る書き方です。ただ、税金は2回目まで見通さないと、思わぬ負担になることがあります。税金と妻の暮らし、両方の見通しを立ててから決めましょう。

和夫さんは、家族で相談に来られ、税理士の試算も見たうえで、自宅と生活費は妻に、残りの一部を子どもたちに遺す遺言を作りました。
「母さんの暮らしも、子どもらのことも、両方考えられてよかったわ」と、和夫さんは話しています。

社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所(滋賀県彦根市)では、遺言の中身の整理から公正証書遺言の準備まで、行政書士がお手伝いします。FPとして、残されるご家族の暮らしのお金も一緒に見通します。進め方は「遺言書の作成・活用のご相談」、暮らしのお金は「老後のお金・ライフプラン相談」をご覧ください。お電話(090-9054-1513・9:00〜20:00)でも、メール・LINEでもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。

※この記事の人物とお話は架空のものです。

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この記事を書いた者

成宮隆行 なるみや たかゆき

【保有資格】
社会福祉士(登録番号178261)
ファイナンシャルプランナー(AFP)・2級FP技能士
宅地建物取引士
行政書士(行政書士登録番号第23252144号/日本行政書士会連合会・滋賀県行政書士会会員)
【職歴】
外資系生命保険会社
司法書士事務所での勤務
社会福祉士・FPとして独立
行政書士成宮事務所を開設
【専門分野】
社会福祉士会のぱあとなあ滋賀に所属し、成年後見業務を中心に活動。行政書士事務所開設後は、遺言・終活・生前対策・相続対策にも注力している。
【相談員等】
彦根市:相続遺言相談会相談員、福祉関係相続等研修会:講師

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