※登場するのは架空の人物で、実際の相談をもとにしたものではありません。
任意後見を任せた人が亡くなると、任意後見の契約は終わります。病気で動けなくなった場合も、ほかの家族が自動的に代わりになることはありません。備えは、契約を結ぶときに「2人目の受任者」を決めておくことと、元気なうちに見直すことです。
彦根に住む文子さん(70代)は、3年前、夫の昭さん(70代)と任意後見の契約を結びました。「わたしがぼけたら、お父さんにお金のことを頼む」という約束です。
ところが先月、昭さんが脳梗塞で入院しました。県外に住む長女が、契約書を手に尋ねます。
「お父さんが動けへんようになったら、お母さんの契約、どうなるん? わたしが代わりになれるの?」
任意後見の「受任者」とは
任意後見は、元気なうちに、将来お金や暮らしの手続きを任せる人を、自分で選んでおく仕組みです。公証役場で、公正証書の契約書を作ります。
任された人を「任意後見受任者」といいます。本人の判断能力が下がり、家庭裁判所が監督人を選ぶと、受任者は「任意後見人」になり、支援が始まります。
文子さんの契約では、昭さんが受任者です。文子さんはまだ元気なので、支援はまだ始まっていません。
任せた人が亡くなったら:契約は終わる
任意後見の契約は、法律上は「委任」という契約の一つです。委任は、任された人が亡くなると終わります。ですから、受任者が亡くなれば、任意後見の契約も終わります。
契約が終わると、その人に任せるはずだったことを、代わりにする人がいなくなります。新しく誰かに頼むには、改めて契約を結ぶ必要があります。なお、契約が終わったことは、法務局に「終了の登記」を申請して記録します。
病気で動けないとき:契約は残るが、代わりはいない
受任者が病気になっただけでは、契約は終わりません。ただ、契約が残っていても、受任者が動けなければ支援はできません。
支援を始める前(監督人が選ばれる前)なら、公証人の認証を受けた書面で、契約をやめることができます。支援が始まった後は、正当な理由があるときに、家庭裁判所の許可を得てやめることになります。家庭裁判所の案内では、高齢や病気で続けられないことが、正当な理由の例に挙げられています。
ほかの家族が自動的に引き継ぐことはない
長女の質問への答えは、「自動的には代われない」です。任意後見は、本人が「この人に」と選んで結ぶ契約です。受任者の家族や、本人の子どもが、そのまま引き継ぐ仕組みではありません。
長女が代わりになるには、文子さんと長女の間で、新しく任意後見の契約を結ぶ必要があります。
本人の判断能力で、取れる道が変わる
このとき大切なのは、本人の判断能力が残っているかどうかです。
| 本人の状態 | 取れる道 |
|---|---|
| 判断能力がある | 新しい受任者と、任意後見の契約を結び直す |
| 判断能力が下がっている | 新しい契約は難しい。家庭裁判所に法定後見の申し立てを検討する |
文子さんはまだ元気なので、長女と新しく契約を結ぶことができます。もし文子さんの判断能力も下がっていたら、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見を考えることになります。法定後見が必要になる場面は「任意後見の契約があるのに、法定後見が必要になるのはどんなとき?」で紹介しています。
契約のときに決めておきたい3つの備え
夫婦や同年代の友人に頼むときは、任せた人が先に倒れることも考えておきましょう。契約のときに、次の3つを考えておくと安心です。
- 受任者を2人にする(たとえば夫と子ども、夫と専門職)
- 年の離れた人や、近くに住む人にも加わってもらう
- 財産管理委任契約や見守り契約と組み合わせ、変化に早く気づけるようにする
受任者を2人にするときは、2人それぞれに任せるのか、役割を分けるのかも決めておきます。頼れる家族が近くにいない場合は、行政書士などの専門職に加わってもらう方法もあります。
判断能力があるうちのお金の管理は「財産管理委任契約」、夫婦ふたり暮らしの備え全体は「夫婦ふたり暮らし。どちらかが倒れたら、お金や手続きは誰が動かす?」で紹介しています。
改正で、受任者の「順番」を決められるようになる
2026年6月に公布された、成年後見の仕組みを見直す法律(民法等の一部を改正する法律)では、任意後見の契約が働き始める順番を、本人と受任者の合意で決められるようになります(法務省の資料による)。受任者が複数いるとき、「まず夫、次に長女」のように順番を考えておけるようになる見込みです。細かな決め方は、まだ示されていません。
成年後見の部分は、公布から2年6か月以内に始まります。始まる日は、これから政令で決まります。改正の後も、2人目を誰にするかを元気なうちに決めておく大切さは変わりません。
まとめ:任せた人の「もしも」も、契約に入れる
任意後見を任せた人が亡くなると、契約は終わります。病気で動けなくても、ほかの家族が自動で代わることはありません。夫婦や同年代に頼むときこそ、2人目の受任者と、元気なうちの見直しで備えましょう。
文子さんは、昭さんの退院を待って家族で話し合い、長女を2人目の受任者に加える形で契約を結び直しました。
「お父さんだけに頼んでたら、どうなってたかと思うわ」と、文子さんは話しています。
社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所(滋賀県彦根市)では、任意後見契約の設計から公正証書での作成まで、行政書士がお手伝いします。頼れる方が近くにいない場合は、当事務所が受任者になることもできます。成年後見の仕事を続けている社会福祉士として、支援が途切れない組み立てを一緒に考えます。詳しくは「任意後見契約」をご覧ください。お電話(090-9054-1513・9:00〜20:00)でも、メール・LINEでもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。
※この記事の人物とお話は架空のものです。


