※登場するのは架空の人物で、実際の相談をもとにしたものではありません。
委任状があっても、銀行が手続きに応じないことはあります。預金は本人の財産で、銀行は本人の意思を確かめることを出発点にしているからです。銀行ごとの届出を先に済ませ、判断能力が落ちる前に任意後見とセットで備えると、窓口で通りやすくなります。
彦根に住む美和子さん(50代)は、ひとり暮らしの母の支払いを手伝っています。母に便箋で委任状を書いてもらい、銀行の窓口へ行きました。
「申し訳ありません。この委任状では、お手続きができないんです」
美和子さんは、何がいけなかったのか分からないまま帰ってきました。
銀行が慎重なのは「本人のお金」だから
預金は、家族であっても本人のものです。銀行は、払い戻しのたびに本人の意思を確かめることを基本にしています。
全国銀行協会(銀行の業界団体)は、代理人との取引について考え方を示しています。本人から正しく任されていて、銀行がその代理人の届出を受けていれば、代理人とも取引できる、という整理です。逆にいえば、届出がなく、本人の意思も確かめられないと、断られることがあります。この考え方は各銀行の参考で、対応は銀行ごとに違います。
窓口で通りやすくする3つの準備
美和子さんのように断られないために、次の3つを先に済ませておきましょう。
- 取引のある銀行に、代理人の手続きに何が要るか聞く
- 銀行所定の書式(代理人の届出など)を、母が元気なうちに一緒に出す
- 何を任せるかを、財産管理委任契約の書面にしておく
便箋の委任状は、内容が人によってまちまちです。銀行には、決まった書式があることが多くあります。本人に電話で確認されたり、委任状では受け付けない手続きがあったりもします。
財産管理委任契約は、何を・どこまで任せるかを契約書にまとめたものです。公正証書にしておくと、本人の意思で結んだことを示しやすくなります。
母の判断能力が落ちてきたら
注意したいのは、母の物忘れが進んだあとです。委任状や委任契約が、すぐに無効になるわけではありません。ただ、銀行は本人の意思を確かめられないと、取引を控えることがあります。
また、委任契約には、代理人を見守る仕組みがありません。本人が代理人の仕事を確かめられなくなると、本人を守る手立てがなくなります。そこで、判断能力が落ちたときに切り替える「任意後見」と、セットで結んでおくのが一般的です。
| 便箋の委任状 | 財産管理委任契約 | 任意後見 | |
|---|---|---|---|
| 作り方 | 本人が書く | 契約書(公正証書にもできる) | 公正証書が必要 |
| 使える時期 | 本人が元気なうち | 本人が元気なうち | 判断能力が落ちたあと |
| 見守る人 | いない | いない | 家庭裁判所が選ぶ監督人 |
| 銀行での示し方 | 銀行所定の書式が別に要ることが多い | 銀行所定の届出と合わせる | 登記の証明書で権限を示せる |
任意後見は、家庭裁判所が監督人を選んだときから始まります。始まったあとは、法務局の証明書(登記事項証明書)で、代理人の権限を示せます。銀行も、任意後見人とは代理の取引をするのが一般的です。
任意後見の仕組みは「認知症に備えて、信頼できる人に将来を託す任意後見契約」で紹介しています。
契約が何もないまま、判断能力が落ちたら
何の備えもないまま判断能力が落ちると、家族でも引き出せないのが基本です。本人の医療費の支払いなど、ごく限られた場合に、銀行が家族の払い戻しに応じることはあります。詳しくは「親のキャッシュカードで家族が引き出してもいい?」をご覧ください。
【今後の予定】2026年6月に、成年後見の制度を見直す法律が公布されました。任意後見では、法定後見(補助)が始まっても契約が続けられるようになるなどの見直しがあります。始まる日は、公布から2年6か月以内に政令で決まる予定で、まだ決まっていません。この記事は、今の制度で書いています。
美和子さんが選んだ備え
美和子さんは、母と一緒に相談に来られました。取引のある銀行に代理人の手続きを確かめたうえで、財産管理委任契約と任意後見契約を、公正証書でセットで結びました。
「母が元気なうちに決められて、ほっとしました」と、美和子さんは話しています。
入院から施設へ移るときの流れは「親が入院、そのまま施設へ。支払いや契約は誰がする?」で紹介しています。
まとめ:委任状は「銀行の書式」と「任意後見」で補う
銀行は、本人の意思を確かめられないと、代理の取引を控えることがあります。銀行ごとの届出を先に済ませ、何を任せるかを契約書にし、判断能力が落ちたときに備えて任意後見とセットにしておきましょう。
社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所(滋賀県彦根市)では、財産管理委任契約と任意後見契約の設計から公正証書の準備まで、行政書士がお手伝いします。契約書を作るときに、ご利用予定の金融機関の対応もあらかじめ確かめます。頼れる方がいない場合は、当事務所が任意後見の受任者になることもできます。進め方と料金は「財産管理委任契約の作成・ご相談」をご覧ください。お電話(090-9054-1513・9:00〜20:00)でも、メール・LINEでもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。
※この記事の人物とお話は架空のものです。


