きょうだいの一人に全財産を相続させる遺言書の書き方

「介護をしてくれた妹に、全部を残したい」「疎遠な弟には渡したくない」。子どものいない方から、こうしたご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げると、相続人が兄弟姉妹だけの場合、遺言書によって特定の一人に全財産を相続させることは、他の相続の場面と比べて実現しやすい類型です。理由は、兄弟姉妹には遺留分がないためです。ただし、方式を1つでも欠けば遺言書そのものが無効になりますし、書いた後にしておくべきことも残ります。この記事では、自筆証書遺言の書き方と例文、そして書いた後の手続きまでを順に説明します。彦根市を中心に滋賀県全域で遺言書の作成支援を行う行政書士がまとめました。

目次

誰が相続人かで、実現しやすさが変わります

まず確認していただきたいのが、ご自身が亡くなったときに誰が相続人になるかです。ここによって、遺言書の効き方が大きく変わります。

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている最低限の取り分のことです。遺言書で全財産を一人に渡しても、遺留分を持つ相続人から金銭の支払いを請求されることがあります。

相続人遺留分全財産を一人に渡す遺言の実現しやすさ
配偶者、子(孫)あり遺留分侵害額請求を受ける可能性がある
直系尊属(父母・祖父母)のみあり同上
兄弟姉妹(甥・姪)のみなし請求される余地がなく、実現しやすい

民法1042条1項は、遺留分を持つ者を「兄弟姉妹以外の相続人」と定めています。つまり兄弟姉妹には遺留分がありません。これは、きょうだいの一人に全財産を残したい方にとって決定的に有利な点です。

一方、ご健在の配偶者がいる場合は事情が異なります。配偶者には遺留分があるため、きょうだいに全財産を渡す内容は請求を受ける可能性があります。子どものいないご夫婦のケースは子どもがいない夫婦に遺言書が必要な理由で扱っていますので、そちらをご覧ください。遺留分そのものの仕組みは遺留分とは?で解説しています。

なお、遺留分を持つ相続人から請求を受けたとしても、遺言書が無効になるわけではありません。請求は金銭の支払いを求めるものであり、財産の分け方を定めた遺言書の効力自体は維持されます(民法1046条1項)。この点はよく誤解されています。

自筆証書遺言の書き方:4つの要件

自筆証書遺言に必要なのは、次の4つだけです(民法968条1項)。

  1. 全文を自書する(パソコン・代筆は不可。筆記具の種類は問いません)
  2. 日付を自書する(年月日まで特定できること)
  3. 氏名を自書する
  4. 印を押す

ここで、よく見かける2つの誤解を訂正しておきます。

実印である必要はありません。民法968条1項は「印を押さなければならない」と定めているだけで、実印を求めていません。認印でも要件は満たします。最高裁判所は、印章に代えて指に朱肉などをつけて押す指印でも足りると判断しています(最高裁平成元年2月16日判決)。ただし、後日に偽造を疑われた場合、印鑑証明書と照合できる実印のほうが証明力は高くなります。「実印でなければ無効」ではなく「実印のほうが安全」というのが正確な理解です。

財産目録はパソコンで作れます

財産が多い方にとって負担が大きいのが、不動産や預貯金口座を一つずつ手書きする作業です。この点は法改正で緩和されました。財産目録については自書が不要となり、パソコンで作成した一覧表や、通帳のコピー、登記事項証明書を添付する形で足ります(民法968条2項)。

条件が1つあります。目録の各ページに署名と押印が必要です(両面に記載がある場合は両面)。ここで押さえておきたいのは、必要なのは「署名と押印」であって「日付」ではないという点です。日付は本文に書けば足ります。

この方式緩和が施行されたのは2019年(平成31年)1月13日です。ときどき「2020年7月10日から」と説明されることがありますが、その日付は法務局の遺言書保管制度が始まった日で、別の制度です。

なお、書き間違えたときの訂正には決められた方式があり(民法968条3項)、これを誤ると訂正が無効になります。訂正するより、書き直すほうが確実です。自筆証書遺言の方式全般については自筆証書遺言についてで詳しく解説しています。

記載例

以下は、きょうだいの一人に全財産を相続させる場合の簡単な例です。実際には全文を自書する必要があります。財産の内容や家族構成によって適切な書き方は変わりますので、あくまで骨格としてご覧ください。

遺言書

遺言者 成宮太郎は、次のとおり遺言する。

第1条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産(不動産、預貯金、有価証券、
   その他一切の財産)を、遺言者の妹である成宮花子
   (昭和○年○月○日生)に相続させる。

第2条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、前条記載の成宮花子を
   指定する。
   遺言執行者は、遺言者名義の預貯金の払戻し及び解約、
   不動産の名義変更その他この遺言の執行に必要な一切の権限を有する。

(付言事項)
 長年にわたり私の生活を支え、通院にも付き添ってくれた花子に、
 感謝の気持ちとしてこの内容を定めました。
 弟の一郎にも、私の気持ちを理解してもらえればと願っています。

令和○年○月○日
                    成宮 太郎 印

押さえておきたい点を3つ挙げます。

①財産を特定できるように書く

「一切の財産」とまとめる書き方は有効ですが、主要な不動産や預貯金は目録で特定しておくと、その後の手続きが円滑になります。

②遺言執行者を必ず指定する

理由は次の見出しで説明します。この1文があるかどうかで、残された方の手間が大きく変わります。

③付言事項を添える

法的な効力はありませんが、なぜその配分にしたのかを書き残しておくと、他のきょうだいの納得感が変わります。ただし、特定の相続人を責める書き方は、かえって対立を生むことがあります。

「相続させる」と書くこと、遺言執行者を置くことの意味

「相続させる」と書いた遺言は、法律上特定財産承継遺言と呼ばれ、遺産の分け方を指定するものと位置づけられます(民法1014条2項)。「遺贈する」と書く場合とは法的な性質が異なり、その後の登記手続きなどにも違いが出ます。

遺言執行者を指定しておくと、手続きが一人で進められます。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を持ちます(民法1012条1項)。とくに預貯金については、遺言執行者が払戻しを請求できることが条文で明記されています(民法1014条3項)。

指定がない場合、金融機関の窓口で他の相続人の協力を求められる場面が出てきます。全財産を一人に集中させる遺言では、その協力が得られにくいことこそが想定されるリスクです。遺言執行者の指定は、そのリスクへの備えになります。

書いた後にしておくこと

遺言書は、書いて引き出しにしまえば完成ではありません。ここからが、この類型で最も重要な部分です。

法務局の保管制度を使う

全財産を一人に集中させる遺言は、財産を受け取れない他の相続人にとって不都合な内容です。そのため、自宅で保管していると、発見されない、あるいは処分されてしまうリスクが他の遺言より高くなります。

法務局の自筆証書遺言書保管制度を使うと、この不安がなくなります。

  • 手数料は遺言書1通につき3,900円(保管期間中の追加費用はかかりません)
  • 申請は遺言者本人が法務局に出頭して行う(代理人や郵送では申請できません)
  • 保管された遺言書は、家庭裁判所の検認が不要になります

さらに、あらかじめ指定しておいた方に、遺言者の死亡後、法務局から遺言書を保管している旨の通知が届く仕組みがあります。遺言書を渡したい相手を指定しておけば、確実に届きます。制度の詳細は自筆証書遺言書保管制度で解説しています。

ただし、法務局は方式の外形を確認するだけで、内容の相談には応じませんし、遺言が有効であることを保証するものでもありません。「預けたから安心」ではない点にご注意ください。

保管制度を使わない場合、検認が必要になります

自宅などで保管していた自筆証書遺言は、亡くなった後、家庭裁判所に提出して検認を受けなければなりません(民法1004条1項)。

検認は、遺言書の形状や加除訂正の状態を記録し、偽造や変造を防ぐための手続きです。遺言が有効か無効かを判断する手続きではありません。

負担になりやすいのが、申立てに必要な戸籍です。遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍に加え、相続人全員の戸籍が必要になります。相続人が兄弟姉妹の場合、ここが一気に膨らみます。父母の出生から死亡までの戸籍、すでに亡くなっているきょうだいの戸籍、甥・姪の戸籍まで、順にさかのぼって集めることになります。数十通に及ぶことも珍しくありません。

3,900円で保管制度を使えば、この作業ごと不要になります。費用の比較というより、残される方の負担の比較としてお考えください。

不動産があるなら、速やかに名義を変える

不動産を含む場合、もう1つ重要な点があります。法定相続分を超える部分については、登記をしなければ第三者に対抗できません(民法899条の2第1項)。

たとえば、全財産を相続したきょうだいが登記を後回しにしている間に、他のきょうだいの債権者がその法定相続分を差し押さえると、対抗できないおそれがあります。加えて、2024年4月1日から相続登記が義務化され、取得を知った日から3年以内の申請が求められています。

遺言書を書く段階で、亡くなった後に誰がどう登記まで進めるかを想定しておくことをおすすめします。当事務所では、登記は提携する司法書士、税務は提携する税理士と連携し、窓口を一本化して対応しています。

よくあるご相談例(想定ケース)

以下は、実際にお受けすることの多いご相談を一般化した想定ケースです。特定の方の事案ではありません。

CASE 1

介護をしてくれた妹に全部を残したい 70代・彦根市内・独身

ご相談

きょうだいは妹と弟の2人。妹が近所に住み、通院の付き添いを続けている。弟とは20年以上ほとんど連絡がない、というご相談です。

整理すると

相続人は兄弟姉妹のみですから遺留分は発生せず、遺言書で妹にすべてを相続させることが可能です。遺言執行者に妹を指定し、法務局の保管制度で通知先を妹にしておけば、手続きは妹だけで進められます。

CASE 2

きょうだいが多く、全員の戸籍がそろうか不安 80代・湖東地域

ご相談

きょうだいが5人、うち2人はすでに他界し甥姪がいる、というご相談です。

整理すると

自宅保管のままでは、検認のために他界された2人分の出生から死亡までの戸籍と、甥姪全員の戸籍が必要になります。保管制度を使えばこの作業そのものが不要になるため、この方には保管制度の利用をおすすめすることになります。

CASE 3

配偶者がいるが、きょうだいに残したい 60代

ご相談

配偶者がご健在で、それでも財産をきょうだいに残したい、というご相談です。

整理すると

配偶者には遺留分があるため、きょうだいに全財産を渡す内容だと、配偶者から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。このケースは「兄弟姉妹には遺留分がない」という話が当てはまりません。配分を見直すか、別の手段と組み合わせるかを、個別に検討することになります。

ご自身がどのケースに近いか判断が難しいときは、遺言書作成のご相談のページもあわせてご覧ください。

よくある質問

きょうだいの一人に全財産を相続させると、他のきょうだいから遺留分を請求されますか?

相続人が兄弟姉妹だけの場合、請求されることはありません。民法1042条1項が遺留分を持つ者を「兄弟姉妹以外の相続人」と定めており、兄弟姉妹には遺留分がないためです。ただし、配偶者や子、父母が相続人になる場合は遺留分がありますのでご注意ください。

遺言書に押す印は実印でなければいけませんか?

実印である必要はありません。民法968条1項は「印を押さなければならない」と定めるのみで、認印でも要件を満たします。最高裁判所は指印でも足りると判断しています。ただし、後日偽造を疑われた場合を考えると、実印のほうが証明力は高くなります。

財産目録はパソコンで作ってもよいのですか?

はい。民法968条2項により、財産目録については自書が不要です。通帳のコピーや登記事項証明書を添付する形でも構いません。ただし、目録の各ページに署名と押印が必要です(両面に記載がある場合は両面)。

遺言書を法務局に預けると、内容が有効だと保証されるのですか?

保証されません。法務局が確認するのは方式の外形にとどまり、内容についての相談には応じていません。有効性が争われる可能性は残りますので、内容の検討は別に行う必要があります。

全財産を一人に相続させる遺言は、他のきょうだいに知られますか?

生前に知らせる義務はありません。亡くなった後、保管制度を利用していた場合は、相続人の一人が証明書の交付を受けると他の相続人にも通知が届きます。内容を伏せたまま進めることはできないとお考えください。だからこそ、付言事項で理由を残しておく意味があります。

まとめ

相続人が兄弟姉妹だけであれば、兄弟姉妹には遺留分がないため、きょうだいの一人に全財産を相続させる遺言は実現しやすい類型です。書き方の要件は、全文・日付・氏名の自書と押印の4つで、実印である必要はなく、住所の記載も要件ではありません。財産目録はパソコンで作れます。

そのうえで、遺言執行者を指定することと、法務局の保管制度を使うことの2つは、この類型ではとくに効きます。前者は手続きを一人で進められるようにし、後者は隠匿のリスクと、残される方の戸籍収集の負担をまとめて解消します。

※本記事の内容は執筆時点の情報です。最新の制度内容は個別にご確認ください。

ご相談について

「この内容で書いて大丈夫か」「きょうだいに知られたときにどうなるか」といった段階のご相談で構いません。ご家族の構成をうかがったうえで、遺留分の有無と、書き方・保管の方法まで整理してお伝えします。初回のご相談は無料で、時間制限はありません。土日祝日もご相談を承っています(要予約)。

きょうだいの一人に財産を残したい方へ

初回のご相談は無料です(時間制限はありません)。ご相談だけで終わっても構いません。彦根市を中心に、長浜市・米原市・東近江市を含む滋賀県全域に対応しています。

不動産の登記は提携司法書士、税務は提携税理士と連携して対応します。ご相談内容の秘密は厳守します。

あわせて遺言書は書くべき?メリット・デメリット遺言書の書き換え・撤回もご覧ください。

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この記事を書いた者

成宮隆行 なるみや たかゆき

【保有資格】
社会福祉士(登録番号178261)
ファイナンシャルプランナー(AFP)・2級FP技能士
宅地建物取引士
行政書士(行政書士登録番号第23252144号/日本行政書士会連合会・滋賀県行政書士会会員)
【職歴】
外資系生命保険会社
司法書士事務所での勤務
社会福祉士・FPとして独立
行政書士成宮事務所を開設
【専門分野】
社会福祉士会のぱあとなあ滋賀に所属し、成年後見業務を中心に活動。行政書士事務所開設後は、遺言・終活・生前対策・相続対策にも注力している。
【相談員等】
彦根市:相続遺言相談会相談員、福祉関係相続等研修会:講師

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