遺言書でできること・できないこと|法的効力が生じる事項の一覧

遺言書に書けば何でも実現できる、と思われている方は少なくありません。しかし遺言によって法律上の効力が生じるのは、民法などで定められた「法定遺言事項」に限られます。財産の分け方やお墓を継ぐ人の指定はできますが、葬儀の形式や延命治療の希望には効力がありません。この記事では、できること・できないことを条文とともに整理し、効力が生じない希望をかなえるための方法まで解説します。彦根市を中心に滋賀県全域で遺言書の作成支援を行う行政書士がまとめました。

目次

遺言書で法的効力が生じるのは「法定遺言事項」だけです

遺言書に書いた内容のうち、法律上の効力(相続人や第三者を法的に拘束する力)が生じるのは、法律で定められた事項に限られます。これを法定遺言事項といいます。

なぜ限定されているのかというと、遺言は遺言者が亡くなった後に効力を生じるため(民法985条1項)、書いた本人に真意を確かめることができないからです。効力の範囲を法律であらかじめ決めておかなければ、残された家族が「本当はどういう意味だったのか」で争うことになります。

法定遺言事項に当たらない記載は「付言事項(ふげんじこう)」と呼ばれます。付言事項は無効になるわけではなく、書くこと自体は自由です。ただし、それを守るよう相続人に強制することはできません。

主な法定遺言事項は次のとおりです。根拠となる条文と、遺言以外の方法でも実現できるかどうかを併せて示します。

できること根拠条文遺言以外の方法でもできるか
遺贈(財産を人に贈る)民法964条生前贈与・死因贈与で類似の効果は可能
相続分の指定・指定の委託民法902条遺言でのみ可能
遺産分割方法の指定・指定の委託民法908条1項遺言でのみ可能
遺産分割の禁止(5年以内)民法908条1項遺言でのみ可能
特別受益の持戻し免除民法903条3項生前の意思表示でも可能
共同相続人間の担保責任の定め民法914条遺言でのみ可能
遺留分侵害額の負担についての別段の定め民法1047条1項2号ただし書遺言でのみ可能
配偶者居住権の遺贈民法1028条1項2号遺産分割でも設定可能
認知民法781条2項生前の届出でも可能
推定相続人の廃除・廃除の取消し民法893条・894条2項生前に家庭裁判所へ請求も可能
未成年後見人・未成年後見監督人の指定民法839条・848条遺言でのみ可能
遺言執行者の指定・指定の委託民法1006条遺言でのみ指定可能
祭祀主宰者の指定民法897条1項ただし書生前の指定でも可能
生命保険金受取人の変更保険法44条1項生前の手続でも可能
遺言による信託の設定信託法3条2号信託契約でも可能
一般財団法人の設立一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項生前の設立でも可能
遺言の撤回民法1022条後の遺言によってのみ可能

表の右側の列に注目してください。「遺言でのみ可能」と書かれた事項こそ、遺言書を作る意味が最も大きい部分です。相続分や分け方の指定、遺言執行者の指定は、生前にどれだけ家族へ言い聞かせていても、遺言書という形にしなければ法的な効力を持ちません。

なお、遺言をするには満15歳に達している必要があります(民法961条)。また方式を1つでも欠くと遺言そのものが無効になるため、書ける内容を知ることと同じくらい、方式を守ることが重要です。方式ごとの違いは遺言書作成の相談(滋賀・彦根)のページで詳しく説明しています。

「どう弔うか」は決められませんが、「誰が弔うか」は決められます

ここが最も誤解されやすい部分です。結論から言うと、葬儀の形式や埋葬の方法を遺言書で指定しても法的な効力は生じません。しかし、お墓や仏壇を継ぐ人(祭祀主宰者)の指定には効力があります

理由は、両者の性質が違うためです。祭祀主宰者の指定は、系譜・祭具・墳墓という財産を誰が承継するかという問題で、民法897条1項ただし書が被相続人の指定を認めています。一方、葬儀をどう行うかは事実上の行為であり、法律が効力を与えている事項ではありません。

具体的には、次のような希望には法的な効力が生じません。

  • 葬儀の形式、宗派、参列者の範囲
  • 納骨の方法、散骨や樹木葬の希望
  • 延命治療を望まない、臓器を提供したいといった医療に関する希望
  • ペットの世話を誰かに頼むこと
  • 「兄弟仲良く暮らしてほしい」といった願い

医療に関する希望に効力が生じないのは、遺言の効力が生じるのが死亡時だから(民法985条1項)です。生前の医療方針は、遺言書では間に合いません。

もうひとつ、実務上の理由もあります。遺言書が家族に発見され開封されるのは、多くの場合葬儀が終わった後です。仮に効力があったとしても、葬儀の希望は間に合わないことが少なくありません。

祭祀主宰者の指定について補足すると、民法897条1項ただし書は「被相続人の指定」とだけ定めており、遺言による指定を明文で定めているわけではありません。もっとも、遺言による指定も有効と解されています。指定の方法に決まりはなく、生前に口頭で指定することも可能ですが、後日の争いを避けるためには遺言書に明記しておくのが確実です。

誤解されやすい7つの事項を「できる・条件付き・できない」で仕分けます

相談の場でよく質問を受ける事項を、3つに分けて整理します。

できること

  • 推定相続人の廃除(民法893条)。著しい非行などがある相続人について、遺言で廃除の意思を表示できます。遺言執行者が家庭裁判所へ請求し、審判が確定して効力が生じます。
  • 負担付遺贈(民法1002条)。「この土地を渡すかわりに、母の面倒をみること」というように、財産を渡す条件として義務を負わせることができます。ペットの世話も、この形をとれば法的な裏づけを持たせられます。
  • 遺言による認知(民法781条2項)。遺言執行者が戸籍の届出を行います。認知の効力は出生の時にさかのぼります(民法784条)。

条件付きでできること

  • 相続債務(借金)の負担割合の指定。相続人の間では有効ですが、債権者に対しては効力が及びません。債権者は法定相続分に応じて各相続人に請求できます。
  • 遺言執行者による預貯金の払戻し。特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言(特定財産承継遺言)があり、かつ遺言執行者が指定されている場合に可能です(民法1014条3項)。付言事項で「手続をお願いします」と書いただけでは、金融機関は応じません。

できないこと

  • 相続放棄を強制すること。相続放棄は相続人が自分の意思で決める権利であり、遺言で強制することはできません。
  • 遺留分の放棄を強制すること。生前に遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条1項)。遺言で放棄させることはできません。

負担付遺贈について、ひとつ注意があります。受遺者が負担を履行しないとき、相続人は相当の期間を定めて履行を催告し、それでも履行がなければ家庭裁判所に遺言の取消しを請求できます(民法1027条)。義務を負わせられる一方、確実に実行させる仕組みまでは遺言だけでは用意できないということです。

効力が生じない希望は、3つの方法で実現します

「法的効力がない=あきらめるしかない」ではありません。遺言では効力が生じない希望も、別の制度と組み合わせれば実現できます。

1. 死後事務委任契約

葬儀・納骨・行政への届出・住居の片づけ・関係者への連絡といった、亡くなった後の事務を、生前に契約で誰かに委任しておく方法です。委任契約は本来、委任者の死亡によって終了します(民法653条1号)が、この規定は当事者の合意で変えられるため、死亡後も契約を終了させない特約を結ぶことができます。この点は、最高裁判所の判例においても有効と解されています。

葬儀の形式を実現したい場合、遺言書に希望を書くのではなく、実行する人を決め、費用も預けておくこの方法が中心になります。詳しくは死後事務委任契約の相談(彦根)のページをご覧ください。

2. 祭祀主宰者の指定(遺言)

お墓・仏壇・位牌を誰が継ぐかは、前述のとおり遺言で指定できます。相続人以外の人を指定することもできます。「どう弔うか」は死後事務委任契約で、「誰が弔うか」は遺言で。この2つを組み合わせると、葬送に関する希望はほぼカバーできます。

3. 尊厳死宣言公正証書

延命治療に関する希望は、生前に公正証書として残しておく方法があります。日本には尊厳死を直接定めた法律がないため法的な拘束力はありませんが、本人の意思を公証人が確認した文書として、医療の現場で尊重される実務上の意味があります。尊厳死宣言書の作成サポートで解説しています。

遺言書を作った後の手続きについて

作成後の手続きについても、誤解されやすい点を2つ挙げます。

ひとつは検認です。自筆証書遺言を保管していた人や発見した人は、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を請求しなければなりません(民法1004条1項)。ただし検認は、遺言書の形状や内容を記録して偽造・変造を防ぐ手続きであり、遺言の有効・無効を判断するものではありません。公正証書遺言と、法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言は検認が不要です(民法1004条2項、法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。

なお、検認の申立書は裁判所に提出する書類であり、その作成は司法書士・弁護士の業務です(司法書士法3条1項1号〜5号、同法73条1項)。当事務所では、戸籍の収集など申立ての準備をお手伝いする形で対応しています。

もうひとつは、遺言があっても相続人・受遺者全員の合意があれば、それと異なる内容で遺産分割をすることは可能という点です。遺言書は家族の手を縛るものではなく、話し合いの出発点を与えるものだとお考えいただくと、作成のハードルが下がるかもしれません。

よくあるご相談例(想定ケース)

以下は、実際にお受けすることの多いご相談を一般化した想定ケースです。特定の方の事案ではありません。

CASE 1

お墓を継ぐ人だけは決めておきたい 70代・彦根市内

ご相談

子は長男と長女の2人。長男は県外で暮らしており、長女が近所に住んで墓参りを続けている。「お墓は長女に継いでほしい。長男には現金を多めに残したい」というご相談です。

整理すると

祭祀主宰者を長女に指定する条項(民法897条1項ただし書)と、財産の分け方を定める条項の両方を1つの遺言書に入れることになります。祭祀の承継は相続分とは別の問題ですので、「お墓を継ぐから財産が減る」という関係にはなりません。

CASE 2

無宗教で送ってほしいが、遺言書に書いても効かないと聞いた 60代・湖東地域

ご相談

「家族に負担をかけたくないので、通夜・告別式をせず火葬だけにしてほしい」というご希望です。

整理すると

この希望を遺言書に書いても法的な効力は生じません。そこで、死後事務委任契約で葬儀の内容と費用の出どころまで決めておき、あわせて遺言書に付言事項として理由を書き添える形をご提案することが多いです。付言事項は効力こそありませんが、「なぜそう望んだのか」を残しておくと、実行する人が家族に説明しやすくなります。

CASE 3

ペットの世話を誰かに頼みたい 70代・おひとり暮らし

ご相談

遺言書に「猫のことをお願いします」と書いておけば、誰かが世話をしてくれるのではないか、というご相談です。

整理すると

そのまま書いても法的な義務は生じません。世話をすることを条件に一定の財産を渡す負担付遺贈の形にする方法や、死後事務委任契約に引き取り先への引渡しを盛り込む方法があります。

ご自身のケースがどれに当たるか判断が難しいときは、遺言書作成のご相談のページもあわせてご覧ください。

よくある質問

葬儀の希望を遺言書に書いても意味がないのですか?

法的な効力は生じませんが、書く意味はあります。遺言書が葬儀後に開封されることも多いため、確実に希望を実現したい場合は死後事務委任契約を併用し、遺言書には理由を付言事項として残す形をおすすめしています。

お墓を継ぐ人は遺言書で決められますか?

決められます。祭祀主宰者の指定には法的な効力があります(民法897条1項ただし書)。相続人以外の方を指定することもできます。生前に口頭で指定することも可能ですが、後日の争いを避けるには遺言書に明記しておくのが確実です。

遺言書に「相続放棄してほしい」と書けますか?

書いても効力は生じません。相続放棄は相続人が自分の意思で家庭裁判所に申述する手続きであり、遺言で強制することはできません。特定の相続人に財産を渡したくない場合は、相続分の指定や廃除など別の方法を検討します。

ペットの世話を遺言書で頼めますか?

そのまま書いただけでは法的な義務は生じません。世話をすることを条件に財産を渡す「負担付遺贈」(民法1002条)にするか、死後事務委任契約に盛り込む方法があります。どちらが適しているかは、引き取り手の有無や費用の準備状況によって異なります。

付言事項は書かない方がよいのでしょうか?

いいえ、書いて差し支えありません。法的な効力はありませんが、財産の分け方の理由を書いておくことで、相続人の納得感が高まり、争いの予防につながることがあります。ただし、特定の相続人を非難する内容は、かえって対立を生むことがあるため慎重に検討します。

まとめ

遺言書で法的な効力が生じるのは、民法などが定めた法定遺言事項に限られます。財産の分け方、遺言執行者の指定、祭祀主宰者の指定にはできる一方、葬儀の形式・埋葬方法・延命治療の希望には効力がありません。「誰が弔うか」は遺言で決められ、「どう弔うか」は死後事務委任契約で決める——この整理を出発点に、ご自身の希望がどちらに当たるかを確かめることから始めてみてください。個別の事情によって適した組み合わせは異なりますので、判断に迷われたときはご相談ください。

※本記事の内容は執筆時点の情報です。最新の制度内容は個別にご確認ください。

ご相談について

「これは遺言書で決められるのか」という段階のご相談で構いません。ご希望の内容をうかがったうえで、遺言書で書ける部分と、別の契約で備えるべき部分を整理してお伝えします。初回のご相談は無料で、時間制限はありません。土日祝日もご相談を承っています(要予約)。

「自分の希望は遺言書で実現できるのか」を確かめたい方へ

初回のご相談は無料です(時間制限はありません)。ご相談だけで終わっても構いません。彦根市を中心に、長浜市・米原市・東近江市を含む滋賀県全域に対応しています。

不動産の登記は提携司法書士、税務は提携税理士と連携して対応します。ご相談内容の秘密は厳守します。

あわせて遺言書は書くべき?メリット・デメリット遺言書の書き換え・撤回もご覧ください。

関連記事:遺言書は書くべき?メリット・デメリット3種類の遺言方式の選び方

同じような疑問や事例を、他の疑問と事例から探すこともできます。

この記事を書いた者

成宮隆行 なるみや たかゆき

【保有資格】
社会福祉士(登録番号178261)
ファイナンシャルプランナー(AFP)・2級FP技能士
宅地建物取引士
行政書士(行政書士登録番号第23252144号/日本行政書士会連合会・滋賀県行政書士会会員)
【職歴】
外資系生命保険会社
司法書士事務所での勤務
社会福祉士・FPとして独立
行政書士成宮事務所を開設
【専門分野】
社会福祉士会のぱあとなあ滋賀に所属し、成年後見業務を中心に活動。行政書士事務所開設後は、遺言・終活・生前対策・相続対策にも注力している。
【相談員等】
彦根市:相続遺言相談会相談員、福祉関係相続等研修会:講師

  • URLをコピーしました!
目次