※登場するのは架空の人物で、実際の相談をもとにしたものではありません。
遺言書を書いても、相続税の総額は基本的には変わりません。総額は、遺言とは関係なく「法律で決まった割合で分けた」と仮定して計算するからです。遺言で変わるのは、誰がいくら払うかと、配偶者の軽減や自宅の特例が使えるかどうかです。
長浜に住む正一さん(70代)は、妻と、家を出た娘2人の4人家族です。
「遺言を書いたら、相続税が安うなるんやろ?」
そう言って、知人にすすめられた遺言のことを調べ始めました。
相続税の総額は、遺言では変わらない
相続税の総額は、次の順で計算します。
- 財産の合計から、税金がかからない枠(基礎控除)を引く
- 残りを、法律で決まった割合(法定相続分)で分けたと仮定して、それぞれに税率をかける
- 足したものが「相続税の総額」
この計算に、遺言の中身は出てきません。遺言で「全部妻に」と書いても、「娘に多めに」と書いても、総額の出し方は同じです。
変わるのは「誰がいくら払うか」
総額が決まったら、実際に財産を受け取った割合で、一人ひとりの税額に分けます。
たとえば、遺言で長女に多く遺せば、長女の払う税金が増え、ほかの人の分は減ります。遺言は「総額」ではなく、「負担の分け方」を変えるものだと考えると分かりやすいでしょう。
遺言で変わること・変わらないこと
| 遺言で変わる? | 理由 | |
|---|---|---|
| 相続税の総額の出し方 | 変わらない | 法定相続分で分けたと仮定して計算する |
| 基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の数) | 変わらない | 人数は法律上の相続人の数で決まる |
| 生命保険の非課税枠の総額 | 変わらない | 基礎控除と同じ数え方 |
| 一人ひとりの税額 | 変わる | 実際に受け取った割合で分ける |
| 配偶者の税額軽減の使える額 | 変わる | 配偶者が受け取った額で決まる |
| 自宅の土地の特例が使えるか | 変わる | 誰が受け継ぐかで条件が違う |
| 2割増しになる人がいるか | 変わる | 孫やきょうだいなどに遺すと加算がある |
配偶者の軽減と自宅の特例は、受け取る人で変わる
総額の計算は同じでも、実際の税金は特例で大きく変わります。その特例が使えるかどうかは、遺言で決めた「受け取る人」で決まります。
配偶者には、受け取った財産が1億6千万円か法定相続分のどちらか多い額までなら、相続税がかからない軽減があります。自宅の土地には、評価を80%下げられる特例があり、妻が受け継ぐか、子が受け継ぐかで条件が違います。
ただし、「全部妻に」がいつも得とは限りません。妻が亡くなったときの次の相続まで見通す必要があります。詳しくは「「全部妻に」の遺言は、相続税で本当に得?」で紹介しています。
孫や息子の妻など、配偶者と子ども以外に遺すと、その人の相続税は2割増しになります。「孫や息子の妻に遺言で遺すと、相続税は2割増し?」もあわせてご覧ください。
遺言があると、期限までに特例を使いやすい
遺言の大きな働きは、もう一つあります。申告の期限までに、特例を使える形にしやすいことです。
相続税の申告と納税は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。遺言がなく、家族の話し合いがまとまらないと、いったん法定相続分で申告します。このとき、配偶者の軽減と自宅の特例は使えません。話し合いがまとまらなくても、期限は延びません。
後から使うには、申告のときに「3年以内に分ける見込み」の書類を出し、実際に分けてから手続きをし直します。遺言で受け取る人が決まっていれば、こうした回り道をせずにすむことが多くなります。
遺言で「変えられないこと」にも注意
遺言で第三者に遺しても、基礎控除の人数は増えも減りもしません。人数は、法律上の相続人の数で決まるからです。
また、相続人でない人が受け取った生命保険金には、非課税枠が使えません。孫を受取人にするときなどは、この点も確かめておきましょう。
税額の試算は税理士、遺言の設計は当事務所
実際にいくらになるかは、財産の中身と家族の形で変わります。税額の試算は、税理士の仕事です。
正一さんは、遺言の中身を考える前に、財産の一覧と家族の状況を整理することから始めました。整理した資料をもとに提携の税理士が試算し、その結果を見て、自宅は妻に、預金の一部を娘たちに遺す遺言を作りました。
「安うなるかより、誰がどれだけ払うかが大事やったんやな」と正一さんは話しています。
書く前に確かめたいことは「遺言を書く前の「税金の確認リスト」」にまとめています。
まとめ:遺言は「負担の分け方」と「特例の使いやすさ」を変える
遺言で相続税の総額の出し方は変わりません。変わるのは、誰がいくら払うかと、配偶者の軽減や自宅の特例が使えるかどうか、そして期限内に手続きを済ませやすくなることです。
社会福祉士・FP・行政書士成宮事務所(滋賀県彦根市)では、財産と家族の状況の整理から公正証書遺言の準備まで、行政書士がお手伝いします。税金の試算が必要なときは、整理した資料を提携の税理士にお渡しします。進め方は「遺言書の作成・活用のご相談」をご覧ください。お電話(090-9054-1513・9:00〜20:00)でも、メール・LINEでもご相談いただけます。初回のご相談は無料です。
※この記事の人物とお話は架空のものです。


